1847年に創業されたカルティエは、宝石商としては新興だったが、とりわけデザインのセンスに優れていた。創業間もなく、時の皇帝ナポレオン3世の愛顧を受け、またたく間にフランス社交界の御用達となった。「宝石商の王であるが故に王の宝石商である」。これは後年、イギリス国王ジョージ7世がカルティエに与えた賛辞である。
カルティエ家の人間は身につけるモノはなんでも洗練させる才能があったようで、三代目のルイ・カルティエは1906年に、世界初の実用腕時計と言うべき「サントス・デュモン」を発表している。当時腕時計といえば、女性用の小さな懐中時計に革バンドを付けた程度のものしかなかった。しかしルイ・カルティエはサントスに腕時計専用のまったく新しいデザインを与えた。自然界にはないサントスのスクエアな意匠は、後年多くの腕時計に影響を与えたと言われる。
サントスの考案者、ルイ・カルティエの非凡さを物語るエピソードをいくつか紹介しよう。今多くの時計が使っている「Dバックル」、実はカルティエの発明である。1910年という腕時計がオモチャ扱いされた時代に、すでに実用性を考えたのは先見の明があったと言えるだろう。また、宝飾品にプラチナを取り入れたのも、ルイ・カルティエがはじめてである。当然腕時計にプラチナを採用したのも、彼が先駆けだ。