年末の商戦シーズンに向け、各社からさまざまな新製品が発売され世間を賑わせるこの時期だが、とくにユーザーから熱い視線が送られるのが「プリンター」ではないだろうか。年末の年賀状印刷に欠かせないツールとしてすでに一般的になっているプリンターだが、最近では、デジタルカメラの写真プリント用途や、家庭用コピー機としても使える複合機が主流になってきており、その役割はますます重要になってきている。
そんなプリンター界の雄といえば、写真高画質で定評のある「Colorio」(カラリオ)シリーズでおなじみのエプソンだろう。ここでは、今年2008年の「Colorio」新シリーズの発表を前に、「Colorio」シリーズが、これまでどのように進化してきたのか、その歴史をふりかえってみたいと思う。それによって今年発売される新モデルの姿を予想してみたい。
エプソンが世界で初めて実用化した小型軽量デジタルプリンタ「EP-101」。パソコン用プリンターの歴史はここから始まったのだ |
エプソンというメーカーの歴史は、そのままパソコン用プリンターの歴史ともいえる。エプソンが、プリンターを作るきっかけになったのは、1964年の東京オリンピック。当時オリンピックの公式時計をセイコー(精工舎)と共同で担当していたエプソン(当時の社名は「信州精器」)が、精工舎と共同で開発したプリンティングタイマーが元になり、1968年、ついに世界初の小型軽量デジタルプリンタ「EP-101」が生まれたのだ。
時代はまだ「電子式卓上計算機」(電卓)が、ようやくそろばんに代わってオフィスに導入され始めたばかりで、当然ながらパソコンなどはまだまだ先の時代。そんな時代に発表された「EP-101」は、あっという間に世界中の注目を集めることになる。エプソンの「EP-101」から、パソコン用プリンターの歴史は始まったのだ。
なお、現在の「EPSON」というブランド名も、実はこの「EP-101」から来ている。「EP-101」の型番「EP」を取り、その子供達(SON)が世に多く出ていくようにという願いを込めて、「EP+SON」で「EPSON」というブランドが生み出されたのが1975年のこと。世界初の「パーソナルコンピュータ」といわれる「APPLE II」が誕生したのが1978年、日本国内でNECが「PC-8001」を生み出したのが1979年であることを考えると、パソコンの誕生以前に、すでに「エプソン」というブランドは誕生していたのである。
エプソン初のインクジェットプリンター「IP-130K」。印字ヘッドにピエゾ素子を用いた、現在のエプソンインクジェットプリンターの原型ともいえる製品。なお、インクジェットプリンターは、当時1台が50万円程度していたため、個人で使用するプリンターはいまだにドットインパクトプリンターが主流であった |
その後、国内外のパソコン市場の立ち上がりとともに、エプソンのプリンターは一気に有名になっていく。当時のパソコン用プリンターは、今のようなインクジェット式ではなく、インクリボンを使ってドットをパンチングしていく「ドットインパクト式」が主流だった。前出の「EP-101」もドットインパクト式であり、エプソンはこの方式を使ったプリンター製品を数多く世に送り出している。ただし、ドットインパクトプリンターは、高解像度化するパソコンのグラフィック出力には向いておらず、カラー出力も行えなかった。
こうした流れの中で登場したのが、今主流となっている「インクジェットプリンター」である。エプソンは早くから、必要な位置にインクを飛ばす「オンデマンド型」インクジェットに着目し、高速化と印字の鮮明度の向上。さらに、24ノズルヘッドを従来の9分の1に小型化し、大幅なコストダウンを実現させた。そんな中、国内では、エプソンが「ピエゾ方式」によるインクジェットプリンター「IP-130K」を発売し、インクジェットプリンターの製造・販売を開始する。同年、キヤノンは「サーマル方式」を応用した「バブルジェット方式」のインクジェットプリンターを製品化した。
エプソン独自の「MACH-JET方式」を採用した、カラーインクジェットプリンターの記念すべき一号機「MJ-700V2C」。この製品の成功によって、今後のエプソンのプリンターは、高精細・高画質化へと向かっていく |
当時のインクジェットプリンターの主流であった「サーマル方式」とは、インクを熱で温めることで、インク内に気泡を発生させ噴出するというものである。この方式は今でも多くのメーカーが採用している方式であるが、比較的単純な構造のため製造しやすい半面、インクの噴出量の調整が難しく、印刷物がどうしてもにじんでしまうという問題も抱えていた。
この問題を解決するために、エプソンが研究してきたのが「ピエゾ方式」と呼ばれる方式である。「ピエゾ方式」は、「サーマル方式」のようにインクを熱で温めることなく噴出できる方法で、気泡を作る代わりに、電圧によって形状が変化する「ピエゾ素子」を用い、その膨張圧力でインクを放出するというもの。この方式を採用したことにより「サーマル方式」が苦手としていたインク滴の微調整が可能になり、インク1粒1粒の大きさも極小化することができるようになったのだ。
エプソンが開発したこの方式は「MACH-JET(マッハジェット)方式」と呼ばれ、1993年に「MJ(MACH-JET)シリーズ」として商品化される。この方式を初めて採用した「MJ-500」はモノクロ機であったが、翌年カラー化されて登場した「MJ-700V2C」は、これまでのサーマル方式のカラーインクジェットプリンターに比べ解像度が高く、にじみなどが少ないことからベストセラーとなった。この「MACH-JET方式」の登場によって、カラーインクジェットプリンターの高精細化が一気に進み、この後の「Colorio」シリーズへと受け継がれていくことになる。
「Colorio」ブランドの名を一躍有名にさせた大ベストセラーモデル「PM-700C」。1440×720dpiの高解像度画質と、他に先駆けて採用した6色インクシステムの搭載により、インクジェットプリンターに「写真画質」という言葉をもたらした |
独自の「MACH-JET方式」の採用によって、インクジェットプリンターの世界に革命を起こしたエプソンであったが、その流れをさらに加速させるできごとが起こる。それが、「Colorio」シリーズの登場である。
エプソンが、インクジェットプリンターに「Colorio」というブランド名を使い始めたのは1995年のこと。プリンターだけでなく、デジタルカメラやスキャナーでも同じ「Colorio」ブランドが使用され、「エプソン=カラリオ」というイメージが一般的になってくる。「Colorio」ブランドを冠したインクジェットプリンターの記念すべき第一号製品は「MJ-500C/800C」だったが、その翌年の1996年に発表されるやいなや大ベストセラーとなったのが、後のインクジェットプリンターの世界を変えたとまで言わしめるA4対応プリンター「PM-700C」だ。なお、型番に付けられた「PM」とは「Photo Mach-jet」の略。この型番が付けられたシリーズが、「写真画質」を初めから意識して作られたことを物語っている。
「PM-700C」は、それまでの「MJシリーズ」で採用されていた「Y/M/C/K」の4色インクに加え、「ライトシアン」「ライトマゼンタ」という2色を加えた「6色インクシステム」を初めて採用。これによって、これまでの4色インクでは表現できなかった、微妙な色合いまで表現することができるようになった。加えて、業界最高となる1440×720dpiの高解像度を実現。それまではどうしても粒状感が残ってしまっていた写真データなどの印刷も、一気に高精細に出力できるようになった。これらの革新的な技術によって、「PM-700C」は多くのユーザーの支持を集め、瞬く間にベストセラー機となる。
「PM-700C」の登場によって、インクジェットプリンターは、「パソコンの画面を印刷する機械」から「写真を印刷できる機械」へと変貌した。おりしもその頃、デジタルカメラが普及を始めており、パソコンに写真を取り込んで印刷する、という用途が一般的になりはじめてきた時期でもある。この時流にも乗って、「PM-700C」を初めとする「Colorio」シリーズは、インクジェットプリンターのシェアNo.1を獲得し続け、「写真印刷といえばカラリオ」という評価を欲しいままにしたのである。
「PM-700C」の進化モデル「PM-800C」。ロール紙印刷に加え、業界で初めて「四辺フチなし印刷を実現した。インク滴も最小4plまで極小化され、写真画質にさらなる磨きがかかった |
「PM-700C」の発売後も、エプソンのColorioシリーズは高画質化を進めていく。PM-700C発売の翌年、1997年には印刷速度が高速化された後継モデル「PM-750C」が登場。さらに翌年の1998年には「PM-770C」へと進化を遂げる。Colorioシリーズが採用する「MACH-JET方式」は、インクの噴出量を細かく制御できるのが大きなメリットだが、この「PM-770C」では、インクの噴出量(インク滴)を、業界最小の6pl(ピコリットル)へと微細化することに成功。これによって、得意としてきた写真印刷がさらに精細になった。さらに翌年の1999年に発売された「PM-800C」では、このインク滴が4plへと進化。後に登場する「PM-900C」では、2plまで極小化された。より高精細化されたインク噴出制御によって、もはや他社の追随を許さない高画質をColorioシリーズは手に入れたのである。
また、「PM-800C」は、四辺フチなし印刷を実現したことでも知られている。また、「PM-800C」の姉妹機「PM-800DC」では、新たに「メモリーカードスロット」を搭載。デジタルカメラで撮影したメモリーカードを挿し込むと、パソコン側で専用ソフトが起動し、そのまま写真プリントできるという機能を採用し、後のデジカメダイレクトプリントへの先駆けとなった。
このころになると、デジタルカメラで撮影した写真をインクジェットプリンターで印刷するという「デジカメプリント」が一般的になってきていたが、Colorioシリーズのこうした進化がデジカメプリントを一般的にしたといって間違いないだろう。
「四辺フチなし印刷」に加え、「CDレーベルプリント」にも標準で対応した初のモデル「PM-920C」。最小インク滴2plの7色インクシステムを採用し、写真画質はすでに最高レベルにまで高まっていた |
その後もColorioシリーズの進化は止まることなく続けられる。
2000年に発売された「PM-900C」になると、ロール紙でのフチなし印刷をさらに進化させたA4カット紙を使った「四辺フチなし印刷」が登場。これによって、インクジェットプリンターでの写真印刷は、ほぼ今の形になった。
また、今では一般的になった「CDレーベルプリント」を最初に始めたのも、この「PM-900C」である(標準対応は「PM-920C」)。当時、CD-Rのなどのレーベルにインクジェットプリンターで印刷するなどということは、誰も思いつかなかったことだが、エプソンは他社に先駆けてこの機能を導入。周囲をあっと言わせたのだった。エプソンのチャレンジ精神が表れている好例といえるだろう。
顔料インクを使い圧倒的な耐光性を実現した「つよインク」を初めて採用した「PX-G900」。定着性のいい顔料インクを採用したことで、耐水性や耐光性にもすぐれ、プリントした写真が色あせることなく保存できるようになった。四辺フチなし印刷にも対応し、名実ともに、印画紙による写真プリントのクオリティを実現した |
その後も高精細化を進めていったColorioシリーズだが、2003年になると、今度はインクの改革に取りかかる。この年発売された「PX-G900」などで採用されたインクは、通称「つよインク」と呼ばれる顔料系インク(それまでは染料系のみ)を採用しており、インクの定着性が大幅に改善された。また、染料インクの弱点だった耐水性や耐光性が大幅に改善されたことで、プリントされた写真の色あせもなくなった。この「つよインク」の登場によって、インクジェットプリンターでの写真印刷は、耐久性の面でもそれまでの印画紙による写真プリントとほぼ互角の品質を実現したといえる。
なお、この「つよインク」は、同年秋に写真印刷に適した染料系インクにも拡大され、現在はこちらのほうが主流となっている。エプソンは、インクの改良とともに、使用されるプリント用紙のほうも改良してきており、トータルで見た写真プリントの耐久性は、インクと用紙の両面から相当に高まっている。
これらの技術は今では当たり前の標準機能のようになっているが、始めたのはいつもエプソンである。エプソンの「Colorio」シリーズが切り開いてきたインクジェットプリンターの技術革新が、プリンターをより使いやすいものへと進化させ、自宅でのデジカメプリントを一般化させてきたということを忘れてはいけない。
2007年のフラッグシップモデル「マルチフォトカラリオ PM-T960」。スキャナーと一体化された複合機モデルで、搭載される液晶モニターで確認しながらのデジカメからのダイレクトプリントが簡単に行えるのが特徴だ |
その後、インクジェットプリンターの主流は、それまでのプリンター専用機から、スキャナーを一体化させた複合機へと移っていく。Colorioシリーズでも、2003年の「PM-A850」を皮切りに、複合機シリーズの「マルチフォトカラリオ」が登場し、プリンター、スキャナー、コピー、デジカメダイレクトプリントの1台4役をこなせる多機能性を実現するにいたる。
また、2004年からデジカメダイレクトプリントに特化した、小型のフォトプリンター「カラリオ ミー」シリーズも登場し、Colorioシリーズのラインアップは、小型の「カラリオ ミー」から、複合機の「マルチフォトカラリオ」まで、多種多彩なものとなった。これらのシリーズに共通しているのは、パソコンがなくてもデジカメ写真を印刷できる「ダイレクトプリント機能」。本体に搭載される液晶モニターなどで写真を確認(簡単な編集も可能)しながら、パソコンなしで写真印刷を手軽にきれいに行えるのである。
また、印刷速度の向上という点でも、ここ数年Colorioシリーズは飛躍的な進化を遂げつつある。数年前までは高画質を追い求めるあまり、印刷速度面でやや他社にひけを取っていた部分のあるColorioシリーズだが、インクを噴出するノズル数の増加などにより、ここ2〜3年の間に印刷速度は一気に向上している。その結果、昨年2007年のモデルでは、デジカメプリント(L判)で1枚を約19秒で出力できるという高速印刷性を実現した。「カラリオはキレイだけど遅いから」というような話はもう過去のものになっているのである。
デジカメダイレクトプリントに特化した小型プリンター「カラリオ ミー」(写真は「E-530」)。パソコンとつながなくても、単体でデジカメ写真を印刷できるお手軽さが人気となった |
このように、すでに写真印刷を極めたと言ってもいい「Colorio」シリーズであるが、まもなく登場する予定のColorio新製品はどのようなものになるのであろうか。
もちろん、高画質ということにかけては並々ならぬプライドを持っているエプソンであるから、従来以上の高画質はもちろん期待できるが、ここ数年でかなり改良されてきた印刷速度の面も期待度大であろう。また、ダイレクトプリントをさらに加速させるためにも、本体に装備される液晶パネルやボタン類が、さらに進化してくることも考えられる。デザイン面でのブラッシュアップも期待したいところだ。
以上のように、さまざまな期待が高まる2008年のColorioシリーズだが、今月下旬にも新製品のラインアップが発表される予定となっている。ウワサによれば、かなり大幅なモデルチェンジが行われるようで、今からかなり期待大である。これに関しては、新たな情報がわかり次第、追って詳しくレポートしていく予定だ。ぜひご期待いただきたい。








