ユーザーを二極化する低価格ウルトラモバイルPC
■こだわりなく買える普通のPC
俗に「ドッグイヤー」という言葉がある。犬の1年は人間の7年分に相当することから、革新の早いPC/IT業界を表わす言葉なのだが、その恩恵を受けるためには、こまめにアップデートを続ける必要がある。ソフトウェアのアップデートはそれほどコストもかからないこともあって比較的マメに行なうとしても、ハードウェア、特にPC本体については、そうそうアップデートできるものでもない。
これまでPCというのは、なかなか10万円以下で買うことができなかったために、個人事業者が購入する場合は、どうしても減価償却の対象となっていた。減価償却期間は5年になるわけだが、仕事ベースで使っているPCを5年間使い続けるというのは、実態に合わない。せいぜい3年ぐらいで買い直しになるというのが、仕事でPCを使う人のサイクルではないかと思う。
この7月から各社一斉に日本市場投入が開始された低価格ノートPC、いわゆるウルトラモバイルPCは、PCというハードウェアに置ける買い換えサイクルの常識を覆す存在である。高スペックではないが、そこそこ使えるPCが5万円台で買えるわけだから、多くのショップで販売開始と共に瞬間蒸発状態であるのは、当然の結果である。
多くのPC誌はこれらのウルトラモバイルを、これまでのサブノートと同じ切り口で評価することだろう。だが正直スペックを比較しても、あまり大差ない結果になるはずだ。というのも、その時々でもっともコストバリューの出る部材を集めて作るわけだから、結果的には同じようなものになるはずである。もちろん価格が僅差のものは、どちらを選ぶかという選択肢として残ることになるが、そこはもう好みの問題に集約される。
筆者がASUSのEeePC901を購入したのも、これがいいという明確な理由があったわけではない。どれかこの夏のモデルを一つ買おうと思っていたところ、たまたま購入後2日で早くも手放したいという人がいたので、譲り受けたものである。
ASUSのEeePC901■これは新たなNCか
EeePC901をしばらく使ってみてふと思い出したのは、今から約10年前に話題になったオラクルのNC(Network Computer)である。もはやご存じない方のほうが多いかもしれないが、これはあらゆるソフトウェアがサーバ上にあり、NCはネットワークにログインして使うクライアントとして動作するマシン、という構想であった。当時はまだ立ち上がったばかりのネット上のニュースサイトが、自らの存在価値をかけてさかんにこのNCとJavaを持ち上げていたものだ。
結局このプロジェクトは、当時のネットワークのスピードとJavaの実行速度がネックとなって失敗したが、現状のウルトラモバイルは、このNCの構想をなぞっているとも考えられる。そもそもNCの構想が出てきたのは、各家庭、各個人に1台ずつPCを行き渡らせるには、ハードウェアのコストが問題だったからだ。
しかし10年が経って、台湾ベンダーがコストの問題を解決してしまった。そして今多くのアプリケーションは、ネット上にある。もちろんダウンロードしてローカルで使うという部分は多少残るが、情報収集からコミュニケーション、そしてデータ蓄積まで、すべてオンライン上で片付いてしまう。使うマシンは、何でもいいのだ。
一回り小さいが、普通に使えるキーボードを持つこれは一見すると、加速度的にPCがケータイのような情報端末に近づく傾向にも思える。例えばケータイを機種変したことを延々と綴ったblogエントリを見かけるが、自分はなぜこの機種で、この色を選んだのかなど、他人にとっては完全にどうでもいい情報の羅列にうんざりする。これは「選択すること」に差別化を見いだしているのである。
おそらくウルトラモバイルも、ケータイのように機能が固定化し、できることがはっきりしていれば、どれを買ったとかいう話で終わる。だが低価格でオープンアーキテクチャであるが故に、Linux化やハードウェア改造といったブームが起きる可能性がある。
おそらくウルトラモバイルは、普通にネット用に使うユーザーと、ハッキングするユーザーに、極端に二分されていくだろう。この奥行きの深さがあってこそ、日本市場特有の強さになる。
AV機器評論家/コラムニスト。デジタル機器、放送、ITといったメディアを独自の視点で分析するコラムで人気を博す。主な連載は、AV Watch「小寺信良の週刊Electric Zooma!」、ITmedia +D LifeStyleなど。



