連載記事

野村ケンジの「カー&AV道楽」

第7回 誰が聴いても音のよさがわかるCD
2007年11月22日掲載


新素材を使ったSHM-CDとは?

先日、とある新素材CDの試聴会というものに行ってきた。
新素材? 先日強化ガラス製のCDは聴かせてもらったけど、確かにあれは驚くほど音がよかった。ただ、1枚(同じ曲の普通のCDやブックレート/専用ケースがつくので正確には1セットと言うべきか)20万円(!!)という金額は、普通の人ばかりでなくコアな音楽ファンだって思わず後ずさりしてしまうはず。現実味はないなぁ。などとブツブツつぶやきながら赤坂のユニバーサルミュージックを訪れると、資料とサンプルCDを渡された。デモンストレーションが始まるまでまだ時間がありそうだったので、さっそく資料を読んでみる。

SHM-CDイメージ

それによると、どうやらユニバーサルミュージックと日本ビクターで共同開発した「SHM-CD」なる新シリーズの製品が発売されるようだ。「SHM」は「スーパー・ハイ・マテリアル」の略で、CDのメイン素材であるポリカーボネイト樹脂(いわゆる透明プラスティックのようなもの)を、液晶パネルなどに使われている透明性の高いタイプに変更したらしい。資料に書かれていた「一般的なCDとの違い」はそれだけ。あとは「優れた信号特性」「ピットが正確で精密」などの効用と、結果として音が相当よくなっていることがグラフを使いていねいに説明されている。

誰にも「ひと聴き」で分かる圧倒的な音のよさ

要は「質をよくした」だけで、それ以外はも何も変わらない、特殊なプレーヤーを必要としないごくごく普通のCDなのだ。価格も1枚2,800円(2枚組5,000円、2枚組以上 2,500円)と、これまた一般的なCDとたいして変わらない。まずは11月21日に、クラシック20タイトル、ジャズ30タイトルがいっぺんにリリースされた。今後相当数のラインアップがそろう予定、イコールかなり力の入った製品群であることだけはわかる。正直、この時点ではたいしたものではないだろうとタカをくくっていた。「音がよい」といっても、質のいいオーディオで真剣に聴けば違いがわかる程度の、音質にこだわる一部のマニアだけが喜びそうな製品だろうと勝手に思い込んでいたのだ。

その思いはSHM-CDの音を聴いたとたん、一瞬で吹き飛んだ。なんだろう、この音の違いは。解像度も空間表現も段違いによくなっているし、驚いたことにボリュームまで大きくなっている。普通のCDが「録音された音」という印象を拭えないのに対して、SHM-CDの音はまさに「生の音」。ボーカリストや楽器の存在がやたらリアルに感じられるし、録音されているライブハウスの空間の広さまでも手に取るように分かる。そう、まるで同じ演奏を2組のエンジニアが別のマイクで録音しているかのような違いが、両者にはあったのだ。

後日、もらったサンプルCDをさまざまな人に聴いてもらった。お願いしたのはオーディオ業界関係者から音楽好き、普通の会社員、デジタルプレーヤーを持っていない人、まったく音楽に興味のない人まで様々。しかし全員が音の違いを認識し、声を揃えてSHM-CDの方がよいと言う。それほどまでに、両者の音質には格段の違いがあるのだ。それも高級オーディオだけでなく、ラジカセでも違いがはっきりわかったのだから面白い。

SHM-CDレーベル面 サンプル版ディスクの写真。ごらんのとおり両者のレーベル面にはまったく違いがない SHM-CD読み取り面 読み取り面は素材の透過率が違うはずなのだが見た目に区別はできない

CDにはまだまだ大きな可能性が残されている

正直に言うと、この音を聴くまで僕はCDというメディアに対して「将来性のないメディア」という印象を感じ始めていた。

再生時に曲目もでず、10数曲しか入らないためいちいちディスクを差し替えなければならないという利便性の悪さはもちろん、オンキヨーミュージックなどから96kHz/24bitというハイサンプリングレートの音楽配信が始まった現代においては、音質的にもメリットが見いだせなくなりつつある。確かにMP3やAACなどの圧縮形式に比べればCDのリニアPCM音源はまだまだ質が高いし、実際にパソコンに取り込んだWAVEファイルとCDの聴き比べをすると、CDの方が音に安定感がある(歪みや揺れが少ない)ように思う。

SHM-CDのサンプル版パッケージ SHM-CDのサンプル版パッケージ。ジャケット中央に大きく「SHM-CD」のロゴが入っているため、よく見れば店頭では迷わずに済みそうだ

しかし両者の違いはわずかでしかないし、シリコン系デジタルプレーヤー(HDDは光ディスクに比べれば音質的メリットが高いものの回転ノイズが常に付きまとうため最良とは言い難い)の大容量化が進めばみなWAVEやAIFFの非圧縮ファイルで曲を取り込むようになるだろうから、音質的にはほとんどメリットがなくなってしまうはず。それになんといってもCDには、16bitの壁、そしてリアルタイム回転系メディアに付きまとうジッターという強敵がいる。両者によってメリハリとリアリティーを削られてしまうCDは、24bit録音が主流となりつつある現代において、すでに過去の存在となりつつある。そう思い込んでいたのだ。

しかしSHM-CDの音は違っていた。僕が勝手に16bitクオリティーの限界点だと思っていたものは、単なる読み込みエラーによる音声信号の劣化現象だった。わずかに透過率や屈折率を向上させるだけで、ここまでリアルな音を再現してくれるのだ。もしCDに記録された信号をすべてきちんと拾い上げることができれば、いったいどんな音を聴かせてくれるのだろう。

単にポリカーボネイト樹脂の質を変えるだけでここまでのハイクオリティーサウンドを楽しませてくれるのだから、CDにはまだまだ大きな可能性が残っている。それを多くの人に知ってもらい、いま以上にCDを愛してもらうためにも、ユニバーサルミュージックをはじめとする音楽会社には、ぜひ全てのCDをこのSHM-CDに替えていってほしい。そしてSHM-CDが当たり前となった後にも、さらなる音質向上の手段を求め続けてもらいたい。そうすることで、いまシェアを拡大しつつある音楽配信に対しても、確固たる存在感をアピールできるはず。そう、CDは決して旧世代ではない。汎用性の高さと音質の良さという2つの魅力をもつ、現役かつ主流メディアなのだ。

ライター/野村ケンジ
ライター/野村ケンジ
カーオーディオ専門誌「AUTO SOUND」、4駆自動車雑誌「4X4MAGAZINE」などでカーAV系を中心に活躍するフリーライター。常に数台のクルマを所有せずにはいられないクルマ狂であり、同時にラジオすら付いていなかった1970年式のフィアット・チンクエチェントに本格カーオーディオを取り付けてしまった音楽狂でもある。