“木にこだわった”カナル型ヘッドホン
日本ビクター「HP-FX」シリーズの新モデル「HP-FX500」
世界初の木製ユニットで高い人気に
ポータブルオーディオプレーヤーの爆発的な普及にともない、ヘッドホンも売れている。最近では、1万円を超える高額な製品の人気が高まることも珍しくない。価格.comの売れ筋ランキングでも、最安値で29,565円と高価な部類に含まれるソニーのオーバーヘッド型ヘッドホン「MDR-NC500D」が3位となるなど、かなりの盛り上がりを見せている。
筆者は、2005年に発売されたオーディオテクニカのカナル型ヘッドホン「ATH-CK7」を愛用しているのだが、今年2月に発売された日本ビクター「HP-FX500」に注目していた。ATH-CK7の音質には満足していたのだが、「樺」という木製ユニットを搭載したHP-FX500がどうしても気になり購入。予約から約1か月で届いたのだが、さらにエージングを1か月行った後の試用感などをレポートしたい。
日本ビクターといえば、振動板に「樺」材を採用した「ウッドコーンスピーカー」搭載DVDミニコンポ「EX-A1」を2003年に発売したメーカーである。ウッドコーンスピーカーは開発に20年をかけたという同社渾身の製品であり、他社の追随を許さない特徴となっている。このウッドコーンスピーカーが大きな話題を呼び、人気を集めたことで、EX-A1以降もミニコンポ「ETERNO」シリーズとして発売され続けているのである。
そして、2007年12月、樺材を振動板に採用したカナル型ヘッドホンHP-FX500を発表。当初、2008年2月上旬発売とアナウンスされていたのだが、2月下旬に延期され、発売以降も、店頭で品薄状態が続く事態となった。現在では、品薄状態も解消されているが、価格.comの注目ランキングでも12位(6月27日現在)に位置しており、ニッチな製品でありながらもその人気が衰える気配は見られない。
丈夫さと肌への優しさをあわせ持つ樺材
HP-FX500について詳しく説明しよう。HP-FX500はウッドコーンスピーカーの「カナル型ヘッドホン版」であるが、もちろん、スピーカーとヘッドホンではその構造はかなり異なる。何といっても驚きなのは、独自の薄膜加工技術と成型加工技術を生かして、薄さ80ミクロンという樺材の振動板を採用したドーム型ドライバーユニット「ウッドドームユニット」を作り出すことに成功したことである。髪の毛の厚みが約100ミクロンであることを考えると、この振動板がいかに薄いかおわかりいただけるだろう。しかも、この振動板の生産は手作業で行われているという。まさに日本が誇る職人技によって作り上げられた製品なのである。
また、HP-FX500は振動板だけでなく、筐体にも樺材を採用している。ハウジングにも木を使用することで、ウッドドームユニットの特性がさらに生かされるというわけだ。しかし、なぜ、これほどまでに樺材にこだわったのか。そもそも、樺材はゴルフクラブにも使われているほど硬い木材で、金属を削るのと同じ刃でないと削ることができないという。剛性が求められるスピーカーのキャビネットに使う材料としては最適な材質だ。一方で、樺材は万年筆などにも用いられている、肌にやさしい素材でもある。湿気や脂分が多く、人の体の中でも新陳代謝が激しい耳に差し込んで使うのにピッタリなのだ。硬さと肌にやさしいという要素をあわせ持つ樺材は、ヘッドホンに向いた素材でもあるのである。
実際に商品に触れてみると、ハウジング部は、予想以上に硬い。耳に差し込んだら、痛いのではないかとも思ったが、決してそんなことはなかった。というのも、木材でできたハウジングは耳に入れると、すぐに肌になじんできたからだ。樺材が「肌にやさしい」と評価されているのもうなずける。
振動を伝えないハウジングで音がより広く、心地よく聴ける
ウッドドームユニットとウッドハウジングを備えた本製品が向いている音楽ジャンルは何であろうか。早速、愛用しているiPod touchに接続して、シリコンイヤーピース(M)を装着し、女性ボーカリスト・安藤裕子のアルバム「chronicle.」より「水玉」を聴いてみた。聴き始めて最初に感じたのは、低音が強いということ。一般的に、カナル型ヘッドホンは低音が強調されるといわれているが、常用しているオーディオテクニカ製ATH-CK7よりも強く感じた。これには硬質の樺材によるハウジングが大きく影響していると思われる。シリコンイヤーピースが筆者の耳にフィットしたこともあって、遮音性も高い。周囲のスタッフの話し声などはほとんど耳に入ってこないくらいだ。
しかし、低音が強く感じるとはいえ、他の音域が決して弱いわけではない。ボーカルの中音域もクリアに響き渡る印象だ。安藤裕子の吐息交じりの歌声が心地よく、近くで歌っているように感じるし、アコースティックギターのコードストロークも一音一音聴き取れる。音の解像感が全体的に高く、響きや余韻も実に自然で、普通のヘッドホンでは感じられないような音の広がりを感じることができた。
これに対し、ATH-CK7はボーカルが強調される傾向にあるが、解像度はHP-FX500より低く感じる。中音から高音にかけてはほどよく伸びているものの、HP-FX500に比べると、全体的に音の広がりが今ひとつに聴こえるのだ。HP-FX500に採用される解像感の高いウッドドームユニットと、このユニットの音を自然な形で増幅される樺材のハウジングによる、ベストマッチなコラボレーション効果を実感した。
次に、マイルス・デイビスのアルバムでジャズ音源をチェックしてみた。ジャンルが異なるだけあって、ベース音がより強く響く。しかし、それが決してサックスやピアノの音を邪魔することはなかった。各楽器がバランスよく、しかもはっきり聴き取れる。特に、トランペットソロの余韻が伸び、弱く吹くミュートの部分も自然と耳に入ってくるのだ。こうしたアコースティック系の音楽に関しては、HP-FX500の音が非常にいい感じで、響くことがわかった。一方、ATH-CK7は、「水玉」を聴いたときと同様、解像度が低く思える。
HP-FX500は、ウッドドームユニット、ウッドドームユニットの背面に比重の大きいブラスリングを加えた「ハイブリッド構造」、樺を採用したハウジングといった3つの要素で余分な振動を徹底的に吸収することで、なめらかで自然な音を再現している。実際、試聴中にハウジングに手を触れてみたが、振動はほとんど感じなかった。当然、耳にも振動が伝わらないため、長時間聴いていても耳が疲れない。ATH-CK7のハウジングがかすかな振動を発しているのとは対照的である。
ノイズを吸収する構造がアダに、迫力に欠けるロック
このように、アコースティック系の音楽については、HP-FX500の試聴は非常に好印象だったのだが、すべての面で優位というわけではなかった。それは、ロックバンド「The Clash」のライブアルバムを聴いたときだ。特に「I Fought The Law」を聴いた際に、HP-FX500とATH-CK7の差が際立った。ボーカルのジョー・ストラマーの声、エレキギター、ベース、ドラムのそれぞれがクリアに耳に入ってくる感じなのだが、ハウジング内でノイズを吸収しすぎてしまうためか、エレキギターのディストーションが弱く感じられ、迫力に欠けるのだ。
金属製のハウジングを採用するATH-CK7では、ドラムがズンズン迫ってくる感じがあり、エレキギターのカッティングで起こるノイズがいい感じで響く。しかも、HP-FX500で弱く感じたエレキギターのディストーションが強く聴こえる。やはり、ロックなどの音楽については、ノイズが丸められてしまうとトゲトゲしさに欠けるようで、ロックなどをメインに聴く人にとっては、HP-FX500の音質は物足りなさを覚えるかもしれない。ただし、ノイズが少ないだけに、エレキギター愛好者などが「耳コピ」をするのには適しているだろう。
続いて、同じ曲をそれぞれ、HP-FX500のイヤーピースを低反発イヤーピースに代えて聴き比べた。低反発イヤーピースは「ソフトな感触で耳にぴったりフィットする」とビクターの公式サイトで説明されているが、筆者にとっては密着感が弱く、「音が漏れてしまっているのではないか」と思ってしまったほどだ。音質も密閉感が弱まった分、薄く感じられる。音量がやや下がった印象もあり、同じ製品で聴いているのかと思うほど、音質に差が出た。遮音性も弱まっているようで、シリコン製のイヤーピースに比べて、周囲の音が耳に入ってくるように感じた。ただ、これらは筆者が個人的に感じたことであって、聴く人によっては、シリコンイヤーピースより低反発イヤーピースがピッタリという方もいるだろう。普段聴く楽曲や耳の形状、装着感などで選んでほしい。
HP-FX500は、価格.com最安価格で11,469円(2008年6月27日現在)と、カナル型ヘッドホンでは決して安価な製品ではない。しかし、ウッドドームユニットやウッドハウジングなどオンリーワンの特徴を備え、ポップスやジャズなどのアコースティック系の音楽を中心に聴くのであれば非常に自然な音で楽しめる製品だ。「どうも今ひとつピッタリくるヘッドホンがない・・・」と悩んでいる方に、候補として加えてもらいたい一品である。
| HP-FX500の製品スペック | |||
|---|---|---|---|
| 型式 | ダイナミック型 | ||
| 再生周波数帯域 | 8Hz〜25,000Hz | ||
| 出力音圧レベル | 100dB/1mW | ||
| 最大許容入力 | 200mW | ||
| コード | 0.8mY型(+0.7m延長コード) | ||
| 付属品 | シリコンイヤーピースS/M/L各2個、低反発イヤーピース2個 0.7m延長コード(φ3.5mm24金メッキステレオミニジャック-φ3.5mm24金メッキステレオミニプラグ)、キャリングケース×1 |
||
| 重量 | 7.5g(コード含まず) | ||
昔の映画を見るのにハマっています。田宮二郎主演「黒の超特急」を見て、「二郎、かっこいいぜ」と思いました。ブルーレイディスクが出たら、確実に買いますね。植木等の「無責任男シリーズ」も見てみたいです。








