
2012年2月2日
【図1:「デジタル一眼カメラ」カテゴリのアクセス数推移(2年)】
ここ2年ほど、日本国内のデジタルカメラ市場を取り巻く状況は非常に厳しい。カメラ、特にデジタルカメラの分野では、日本の技術が世界をリードしていることは間違いなく、ワールドワイドで見た場合のデジタルカメラ販売は好調をキープしているが、すでに成熟しきった感のある国内市場を見る限り、ここ2年ほどの間、デジタルカメラ市場の広がりは頭打ちとなっている(図1)。その大きな理由としては、すでに多くの人がデジタルカメラを所有してしまっていることがあるだろう。国内のデジタルカメラ市場のターゲット層も、「ファーストカメラの購入層」から「買い換え・ステップアップ層」へと移ってきており、こうした流れの中で、コンパクトデジカメからより本格的なカメラにステップアップするための「ミラーレス一眼」というカテゴリが登場し、すでに定着しつつある。
この「ミラーレス一眼」は、「デジタル一眼レフ」よりも撮像素子が小さく、ミラー機構を必要としないため、ボディを小型化できるのが最大の特徴で、そのために女性ユーザーなどをメインターゲットに据えたプロモーションがこれまで行われてきた。言ってみれば、ミラーレス一眼は、デジタル一眼レフを扱えないユーザー向けの「ライト版」的な製品として位置づけられてきたのだ。
【図2:ミラーレスデジタル一眼カメラの人気5モデル売れ筋ランキング推移(6か月)】
しかし、そんなミラーレス一眼の人気に早くも陰りが見えている。価格.comの「デジタル一眼カメラ」カテゴリの人気ランキングでも、1年ほど前にはランキングの上位を多く占めていたミラーレス一眼が、2011年の年末時点ではベスト10内に1〜2機種ランクインするかしないかくらいの状況になっていた(図2)。登場した当初はその存在自体が物珍しく、デジタル一眼レフを使っているハイエンドユーザーも、セカンドカメラとして注目するなど、かなりの人気となったのだが、こうしたユーザーのセカンドカメラとしての需要は徐々に「高級コンパクトデジカメ」のほうに移りつつあり、かつてのような注目度はすでにない。頼みの綱の女性ユーザーも、ある程度のアーリーアダプターにはミラーレス一眼は浸透したものの、それに続く一般ユーザーへの浸透は今ひとつだ。少なくとも昨年2011年末の状況を見る限り、ミラーレス一眼の将来はやや見えにくい状況となっていたのだ。
しかし、2012年の年が明けたこの1月に、2つの大きなトピックが、ミラーレス一眼市場にもたらされた。その1つが、ソニーのハイエンドモデル「α NEX-7」の発売。もう1つが、富士フイルムのミラーレス一眼市場への参入第一弾モデルとなる「FUJIFILM X-Pro1」の発表であった。
まずはソニーの新モデル「α NEX-7」から見てみよう。この製品は、実は昨年2011年8月に発表されており、同年11月に発売される予定となっていたのだが、10月に起こったタイの大洪水の影響を受けて、現地の組み立て工場が完全に操業停止となり、発売が延期されていたものだ。しかしながら、2011年8月の製品発表と同時に、価格.comのクチコミ掲示板でもかなりの話題となっており、その注目度は非常に高かった。年末のデジタルカメラ商戦では「最大の目玉」といってもいいくらいの注目の高さを集めていたのである。それだけに、本製品の発売延期のニュースは、デジタルカメラ市場全体に大きな影を投げかけた。予想通り、話題の中心を失った年末のミラーレス一眼商戦は、ニコンが新規参入第一弾モデルとして発売した「Nikon1」を除けば、ほとんど話題にならなかったのである。
ちなみにソニーのミラーレス一眼「α NEX」シリーズは、ミラーレス一眼市場の中でもやや特異な輝きを放つ製品である。ミラーレス一眼の先駆者は、パナソニックとオリンパスが推進する「フォーサーズ規格」を採用する製品で、当然ながらこの2社が中心となってミラーレス一眼市場は拡大してきたという歴史を持っている。しかしながら、ソニーが2010年6月に発売した「α NEX」シリーズは、フォーサーズ規格ではない独自のレンズ規格「Eマウント」を採用。初めから、これらフォーサーズ陣営とは袂を分かった形で登場したのである。このEマウントの採用により、フォーサーズよりもさらに小さなレンズとボディを実現。コンパクトデジカメのような小型軽量なボディと、ソニーならではの遊び心のあるフォーカスシステムなどが人気を呼び、一気にミラーレス一眼の人気製品となっていったのである。その最上位モデルとして期待されていたのが、この「α NEX-7」だったのである。
そんなファン待望のモデル「α NEX-7」の発売が、年明けの2012年1月27日に決定したことは、ミラーレス一眼市場にとって非常にラッキーだったといえるだろう。何しろ、ソニーが2012年8月の段階でいっしょに発表していた下位モデル「α NEX-5NY」に関しては発売が2012年5月にずれ込み、「α NEX-C3Y」に至っては生産自体が見送られてしまったのだ。それだけに、ソニーとしても、この「α NEX-7」にかける意気込みは高かったはずだ。加えて言うなら、この時期に、あえて売れ筋と思われる低価格モデルより、ハイエンドモデルである「α NEX-7」の発売を優先させたのは、やはり前述のようなエントリー機の販売不振という状況がその背景にあったからと思われる。
このようにして、先日1月27日にようやく発売にこぎ着けた「α NEX-7」であるが、発売と同時にかなりのいいスタートダッシュを切っている。価格.comの製品ページのアクセス数推移(図3)を見ても、発売日が決定した2012年12月8日から注目度が急激に上がっており、発売日をピークに若干落ちたとはいえ、依然として高い水準をキープしている。これに伴い「デジタル一眼カメラ」カテゴリの売れ筋ランキングでは、「α NEX-7Kズームレンズキット」が発売から約1週間で2位、注目ランキングでも2位につけている(2012年2月2日時点)。注目ランキングでは、本体のみの「α NEX-7 ボディ」も3位につけており、2モデルで上位を独占するほどの注目度となっていることがわかる(図4)。
なお、価格であるが、2月2日現在で、「α NEX-7 ボディ」が104,699円、「α NEX-7K ダブルレンズキット」が119,728円の最安価格となっている。レンズキットでも6〜7万円程度が中心のミラーレス一眼としては、相当高い値付けと言っていい。それほどの高級モデルでありながら、本製品の販売価格は、1月27日の発売からほとんど変わっておらず、高値安定している状況だ。それだけ、本製品の需要が高いということを示している。2011年8月の製品発表からほぼ半年、その発売を心待ちにして待っていた人も多いことがうかがえる。
【図3:ソニー「α NEX-7ボディ/7K ズームレンズキット」のアクセス数推移(1か月)】
【図4:ソニー「α NEX-7ボディ/7K ズームレンズキット」の売れ筋ランキング推移(1か月)】
そんな「α NEX-7」の発売にかぶせるかのように、今年1月26日、富士フイルムから、同社初となるミラーレス一眼の新製品が発表された。それが「FUJIFILM X-Pro1」である。富士フイルムがミラーレス一眼市場に参入することはすでに昨年発表されていたが、その第一弾モデルとなったのが、この「FUJIFILM X-Pro1」だ。それだけに、同社のこの市場にかけるメッセージや思いが凝縮されているモデルなのだが、何よりも驚かされたのは、本製品がこれまでのミラーレス一眼のようなコンパクトボディをウリにした製品ではなかったことである。価格も10万円を余裕で超える強気の高価格設定。このように、「FUJIFILM X-Pro1」は、あらゆる意味でこれまでのミラーレス一眼の常識を覆すような製品として登場したのである。
「FUJIFILM X-Pro1」の製品コンセプトをひと言で言うなら、まさに「カメラ好きのためのミラーレス一眼」ということだ。ミラーレスを採用した理由も、単純に小型軽量を狙ったためではなく、それが一番「いい画質になるから」ということによる。当然ながら、デジタルカメラの心臓部となるセンサーにも独自技術をフルに生かした独自設計の「X-Trans CMOS」を採用しているし、レンズにしても、独自の「Xマウント」を採用する、まったくの新設計のものを採用している。富士フイルムはこれまでデジタル一眼レフ市場にはいっさい参入してこなかったメーカーであるが、ここへ来てこれだけの大型製品を、ミラーレス一眼として投入してきたというのも驚きだった。
正直、ここまでハイエンドな製品がはたしてミラーレス一眼市場でユーザーに受け入れられるのかと思った人も多かったろうが、この製品の発表に至る経緯は、それまで同社がコンパクトデジカメ市場で成功したいくつかの先例を見ると納得がいく。富士フイルムは、昨年2011年、2つの「高級コンパクトデジカメ」を世に送り出し、その両方ともが大きな成功を収めている。その1つが2011年3月に発売された「FinePix X100」であり、もう1つが同年10月に発売された「FUJIFILM X100」だ(図5)(図6)。シリーズ名こそ違えど、この2つの製品は同一の「Xシリーズ」というくくりでくくられる製品であり、いかにも「カメラ」というようなクラシカルなデザインと操作性、写りにこだわった描写性能、5万円を超えるような高価格設定という面で共通している。コンパクトデジカメの市場では、この1年ほど、こうした「高級コンパクト」というような製品群が人気を得ており、その火付け役となったのが、この富士フイルムの「Xシリーズ」であったのである。
【図5:富士フイルム「FinePixX100」の売れ筋ランキング推移(2年)】
【図6:富士フイルム「FinePixX10」の売れ筋ランキング推移(6か月)】
こうしたXシリーズの成功を受けて、富士フイルムは高級デジカメの路線に勝機を見いだしたのだろう。おりしも、エントリー向けのミラーレス一眼が各社とも苦戦する中で、それまでどのメーカーも手を出さなかった「高級ミラーレス」という市場に、その先陣を切って乗り込んできたのである。正直今までの常識でいえば考えられない製品の投入であったが、その発表からわずか1週間程度しか経っていない現在、価格.comの「デジタル一眼カメラ」カテゴリでも、本機「FUJIFILM X-Pro1」の人気はうなぎ登りで、2月2日現在の注目ランキングは、先日の「α NEX-7」を押しのけての堂々ナンバーワンとなっているほどだ(図7)。これを見る限り、本製品に対するユーザーの注目度は非常に高く、2月18日の発売と同時に、デジタル一眼レフカメラの売れ筋ランキングでも上位にランクインすることはまず間違いないと見ていいだろう。
【図7:富士フイルム「FUJIFILM X-Pro1」のアクセス数推移(1か月)】
【図7:富士フイルム「FUJIFILM X-Pro1」の注目ランキング推移(1か月)】
このように、2012年の年が明けてまだ1か月程度の今、デジタルカメラ市場では、新たなジャンルと言ってもいい「高級ミラーレス一眼」の人気が高まってきている。その火付け役として、ソニーの「α NEX-7」と富士フイルムの「FUJIFILM X-Pro1」が登場したわけだが、いずれも10万円を超える高価格製品でありながら、非常に注目されていることがわかるだろう。この流れは、間違いなくほかのメーカー、特に現在ミラーレス市場に参入しているパナソニックやオリンパス、ペンタックスなどにも波及するはずだ。また、昨年末に新規参入したニコンや、今年中にも参入が噂されるキヤノンも、何らかの影響を受けざるを得ないだろう。ただし、ニコンやキヤノンの場合、デジタル一眼レフのラインアップと競合する製品ジャンルとなるだけに、これらの製品に対する直接の競合製品は出しづらいところ。その分、本来のデジタル一眼レフカメラのほうで、これらの製品のエッセンスを取り入れた製品を出してくることも考えられる。
いずれにしても、こう考えてくると、コンパクトデジカメの市場ではすでに起こっている「低価格モデル」と「高級モデル」の2極化が、ミラーレス一眼の市場でも同様に起こってくることは容易に考えられる。これまでやや行き詰まり感のあったミラーレス一眼市場に、「高級モデル」という新たな風を吹き込んでくれたこの2モデルの成功の可否は、今後も要注目といえるだろう。
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