「Dolby Atmos」&ロスレスオーディオ対応サウンドバー デノン「DHT-S217」の進化とは?
2022年4月、デノンから、シンプルなワンボディサウンドバーの新モデル「DHT-S217」が発表された。2019年に発売されて大ヒットした「DHT-S216」から約2年を経て、デノンサウンドバーの新しいエントリーモデルはいかに進化したのか? 本特集では、この「DHT-S217」を徹底レビュー。新しく「Dolby Atmos」&ロスレスオーディオに対応し、機能と音質の両面で大きく進化を遂げたその魅力をじっくりチェックしていこう。
基本スペック 大ヒットモデル「DHT-S216」登場から2年!
「DHT-S217」の進化を探る
オーディオ&ビジュアルに詳しいユーザーなら、今回の主役である「DHT-S217」の型番を見て、「あの『DHT-S216』の後継モデルがついに出たか」とピンと来た人も多いと思う。しかし、型番こそわかりやすく後継モデルであることを指しているが、「DHT-S217」は機能と音質の両面で大きく進化しており、従来モデルからワンランク上にアップグレードしたとも言える製品なのだ。そこで、まずは人気を博した従来モデル「DHT-S216」について簡単に振り返りつつ、新モデル「DHT-S217」のスペック的な進化点を整理していこう。
2019年に発売されて大ヒットした「DHT-S216」は、当時、オーディオファン層が満足できるような「ピュアでストレートな音質」を目指して開発されたサウンドバーで、それまでデノンのハイエンド製品を開発してきたサウンドマスター・山内慎一氏が音決めを行ったこともあり、発表時から話題になった製品だった。そして実際、シンプルなワンボディサウンドバーながら、“Hi-Fi感覚”で作り込まれた音質のクオリティが高く評価され、ヒットにいたったという経緯がある。
実は新モデルの「DHT-S217」も、基本的な開発思想や本体デザイン、内部ユニット構成は「DHT-S216」から継承されており、「老舗オーディオブランドならではのこだわりの音質チューニングを施したサウンドバー」というコンセプトも同じ。入出力系統も「DHT-S216」と同様にシンプルで、HDMI端子は入出力が1系統ずつ、そのほかに光デジタル入力とAUX入力を装備するといった具合。ワイヤレスではBluetooth経由での音声入力に対応し、スマートフォン内の音楽などを再生して楽しむBluetoothスピーカーとしても使える。

内部スピーカーユニットの構成は、25mmのツイーター、45×90mmの楕円形ミッドレンジ、75mmのサブウーハーを左右それぞれ2基ずつ搭載する、3ウェイ・6スピーカーによる2.2ch設計。実はこの内部ユニットの配置やユニット自体も、完全に「DHT-216」と同一である
では、「DHT-S217」のどこが変わったかというと、まず機能面では新しくHDMIポートがeARC対応になったことと、立体音響「Dolby Atmos」およびロスレスオーディオのデコードに対応したことがあげられる(「Dolby Atmos」は「Dolby TrueHD」ベースのフォーマットに対応)。アップルの「空間オーディオ」が登場したことによって、一般ユーザーの認知度も向上した「Dolby Atmos」。本機は「Dolby Atmos」用のイネーブルドスピーカーは非搭載のため、DSPによる再現となるが、それでもシンプルなワンボディサのウンドバーで、「Dolby Atmos」対応コンテンツを手軽にスピーカー再生できるというのはうれしい。
さらに音質に関わる部分でも、同ブランドのハイエンドAVアンプと同じSoCや、上位モデルと同じ電源部のパーツを採用するなど、細部がブラッシュアップされている。もちろん今回もデノンサウンドマスターの山内慎一氏がチューニングを行っており、サウンドをより磨き上げている。
デノンならではの「Pure」モードも継承
また、「DHT-S216」の機能で特徴的だったのが、サウンドモードだ。一般的なサウンドバーでよくある「Movie」「Music」といった標準的なモードのほかに、「Pure」というモードを搭載していたのだ。これは、サウンドバーに入力された音声信号を、内部でデコード後にクラスDアンプへダイレクト伝送するモード。つまりDSP内で行われるバーチャル音声処理等をバイパスすることで音の純度を高めて再生するもので、Hi-FiコンポーネントやAVアンプなどを手がけてきた老舗オーディオメーカーらしい思想がうかがえるサウンドモードである。

「Pure」モードのイメージ図。オーディオメーカーのデノンが、ハイエンドの世界で目指してきた音作りを、サウンドバーでも追求したことがわかる象徴的な機能と言えるもので、「DHT-S216」以降に登場した同ブランドのサウンドバーすべてに搭載されている
もちろん新モデル「DHT-S217」でも、この「Pure」モード機能は継承。デノンのサウンドバーは開発時に上述の「Pure」モード時の音を作り込み、それをベースに「Movie」「Music」モードをチューニングしているということもあり、「Pure」モードは、いわばサウンドの基礎となる部分だ。さらに「DHT-S217」では、新しく対応した「Dolby Atmos」の効果を踏まえてサウンドの作り込みを行っていることが特徴。このあたりの音質については、次章で詳しくレポートする。
音質チェック 大きくアップグレードした
サウンドクオリティ
それではいよいよ、「DHT-S217」のサウンドをチェックしていこう。内蔵のスピーカーユニットや本体の基本設計は従来モデルとほぼ同じという条件で、どこまでサウンドクオリティを高めているのか、気になるところである。
「DHT-S217」のスピーカーとしての地力を確認するべく、まずは「Pure」モードで2ch再生を行った。テクニカルなギタープレイとソウルフルなボーカルが特徴のジャズユニット、Fried Pride のアルバム「ROCKS」から「Every breath you take」を聴く。先に結論から言うと、内蔵するスピーカーユニットは「DHT-S216」と同じはずなのに、「DHT-S217」では音が大きく変わっていることに驚いた。
「“Hi-Fi的”な素性のよい音」という点は「DHT-S216」も同じだったのだが、「DHT-S217」ではそこからさらに進化して、基本的な「音の鮮度」がより増している印象なのだ。楽曲の出だしでギターのアルペジオが入ってきた瞬間に、その鮮やかさに引き込まれてしまった。「Pure」モード時の帯域バランスはやや中高域寄りで、解像感が高く中域に厚みがあり、さらに低域の抜けがよくなっているのも印象的。改めて、外観は従来モデルとほぼ同じなのに、一聴して明らかにわかるほど音質を進化させていることに感心させられた。
なお、同じデノンからは、本機の上位モデルにあたるサウンドバー「DHT-S517」が2022年2月に発売されており、こちらもかなりのヒットモデルとなっているが、「DHT-S217」の基本的な音質傾向は、この上位モデルに近い。
「DHT-S517」は、サブウーハーが別筐体となった2ユニット型で、バー部のサイズも大型なため、絶対的な音の余裕や低域の量感は、この上位モデルのほうが上。ただし、「Pure」モード時の基本となる音作りの方向性は、「DHT-S217」にも共通のものがしっかりと受け継がれているのだ。「音のよいワンボディサウンドバー」という基本コンセプトこそ、前モデル「DHT-S216」を継承するが、サウンドは最新の上位モデル、「DHT-S517」ゆずりの進化が注ぎ込まれているという印象だ。
サウンドモード体験 「Dolby Atmos」&ロスレスオーディオを
手軽にスピーカー再生
続いて、「DHT-S217」で新しく対応した「Dolby Atmos」コンテンツの再生を試していきたい。付属のリモコンを使って、「Movie」モードまたは「Music」モードを選択すれば、「Dolby Atmos」のサウンドを再現して鳴らすモードになる。ブルーレイディスクから映像配信、音楽配信、ゲームに至るまで、幅広い分野で対応コンテンツが充実してきている「Dolby Atmos」のサウンドを、手軽かつ高品位に満喫できるわけだ。

リモコンのボタンから、手軽にサウンドモードを切り替えられる。ちなみに「Pure」モードに設定するとDSPをバイパスするので、「Dolby Atmos」再生は適用されない。「Dolby Atmos」ならではのサウンドを楽しむ場合は、「Movie」または「Music」のサウンドモードを選ぶ必要がある。入力ソースがステレオ音声の場合に「Movie」「Music」を選んだ時も、アップミキサーの働きによって「Dolby Atmos」が再現される
まずは「DHT-S217」とテレビをHDMI接続したシンプルな構成で、「Netflix」からレオナルド・ディカプリオ主演のNetflixオリジナル映画「ドント・ルック・アップ」(4K HDR/Dolby Atmos)を、「Movie」モードで視聴。ブラックコメディタッチのSFパニック映画で、劇中に音楽ライブシーンもアリと、エンターテインメント性の高い作品である。
「Movie」モードを選択すると、サウンドの空間性が左右・上下方向に広がり、低域の量感が増してズンズン響くようになる。宇宙に向けてロケットを発射するシーンや、彗星が宇宙空間を流れるシーンなどのSFらしいカットでは、テレビ画面の左右・上下にかけてゴオォォォ、とうなる低音が迫力満点。また地響きが迫るシーンでは、ズンと来る低域がパニック映画ならではの恐怖心を掻き立ててくれる。さらに人気歌手のアリアナ・グランデが歌唱するライブシーンでは、広がりのあるバックミュージックとキレのあるビートで、かなりノれる。
いっぽう、セリフ音声や環境音については、「Pure」モードのほうが自然に表現されている部分もあり、好みに合わせてサウンドモードを使い分けるとよさそうだ。「ドント・ルック・アップ」のような「Dolby Atmos」対応コンテンツや、重低音を効かせたいアクション・SF系の作品は「Movie」モードで、いっぽうモノローグの多い静か系のストーリーや、セリフ回しのおもしろさで見せるような作品は「Pure」モードで、といったように、作品に合わせて使いこなすと楽しいだろう。
次に、「Apple TV」を「DHT-S217」とHDMI接続する構成で、アップルの「空間オーディオ」を満喫してみる。「Apple Music」から、Official髭男dismの楽曲「Cry Baby」(Dolby Atmos)を再生した。まず「Pure」モードで聴いてみると、ボーカルの声がしっかりと前に出ており、高域の伸びもよく鮮度の高い音がする。そこから「Music」モードに切り替えると、やはりこちらも一気に左右・上下に音の空間が広がり、低域が豊かに。バックで演奏している楽器の位置が上手・中央・下手に定位するイメージで、ステージ感が出てきた。
なお、「DHT-S217」で音楽コンテンツの「Dolby Atmos」(空間オーディオ)対応作品を聴く場合に、サウンドモードを「Pure」モードにするか「Music」モードにするかは、正直かなり迷うところではある。音そのものの鮮度の高さでは「Pure」モードに軍配が上がるのだが、「Dolby Atmos」(空間オーディオ)ならではの空間性・広がりを感じられるのは「Music」モード。おそらく、本機を購入した音楽好きユーザーの多くがこのポイントに悩み、楽曲に合わせてサウンドモードの切り替えを楽しんでいくスタイルになるのではないだろうか。
また、「DHT-S217」で進化したもうひとつのポイント、ロスレスオーディオへの対応についても最後に確認しておきたい。サウンドバーと言えば、まずはテレビとHDMIケーブル1本で簡単に接続できるスマートさがポイントだが、「PS5」やブルーレイディスクプレーヤー/レコーダーなどと組み合わせて、「Dolby TrueHD」フォーマットやロスレスベースの「Dolby Atmos」を手軽に楽しめるのも、オーディオ&ビジュアルファンにとっては魅力。今回は検証用に、Dolbyのデモディスクに収録されている映画「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」の冒頭の砂漠のシーンで、ロッシーとロスレスの2バージョンを聴き比べてみたが、「DHT-S217」はその差をしっかりと表現してくれた。明らかにロスレスのほうが音の輪郭がはっきりとしており、シーンへの没入感がより高く得られた。
まとめ総じてコスパの高さを実感できる1台
「DHT-S217」は、型番から言えば大ヒットした「DHT-S216」の後継モデルとなり、HDMI入出力を1系統ずつ備えるシンプルなワンボディサウンドバーという点も一緒。しかし、実際にそのサウンドを聴くと、ワンランク上にアップグレードしたと言えるレベルの進化を体験できた。機能面で「Dolby Atmos」およびロスレスオーディオに対応したことに加え、サウンドそのものが約2年をかけてより磨き上げられたことに注目したい。実売価格3万円弱のサウンドバーとして、この機能と音質のバランスには、総じてコストパフォーマンスの高さを実感した。