完全ワイヤレスイヤホンの新時代の幕開け 「Denon PerL」シリーズ誕生
2023年7月に発売される、デノンの新しい完全ワイヤレスイヤホン「Denon PerL」(デノン パール)シリーズ。新生児の聴覚検査にも用いられる医療技術を応用した高度なパーソナライズ機能「Masimo AAT」を搭載することで、1人ひとりの聴覚に合わせて、デノンが考える最高のサウンドを提供できる、エポックメイキングなモデルとなっている。本シリーズには、フラッグシップモデル「Denon PerL Pro」とプレミアムモデル「Denon PerL」の2種類がラインアップされるが、ここでは、プレミアムモデル「Denon PerL」を使用して、その高度なパーソナライズ機能を中心に詳しくレビューしてみた。 ※画像は開発中のサンプルのため、ロゴの印刷が実際の仕様と若干異なります。
新シリーズ登場
イヤホンの歴史を1歩進める
「Denon PerL」シリーズ
ハウジングで耳を覆うのではなく、小さなスピーカーユニットを耳の穴に入れて使用する「イヤホン」。その軽快さからポータブルオーディオにおいて必須アイテムとなっているが、その歴史はワイヤードのインイヤー型から始まり、ライブなどの騒々しいステージ上でもしっかりと遮音して必要な音を届けることができる密閉タイプの密閉性の高いカナル型へ、そして外来ノイズをさらに抑制してより静かな環境で音楽を楽しめるノイズキャンセリング機能を搭載したものへと進化していった。進化の方向はそれだけではなく、近年ではBluetooth技術を活用することで、音楽プレーヤーとイヤホン間に加え、左右のユニットをつなぐケーブルも排したモデルも登場。その利便性の高さから、完全ワイヤレスイヤホンとしてイヤホン市場の主流をしめている。
このように、どちらかと言えば使いやすさを高める方向で進化を果してきたイヤホンだが、音楽を聴くためのデバイスとして、何よりも大切なのは“音質”であることは変わりない。オーディオブランドをはじめとした各社が最高の音質の実現に向けて、独自のサウンドフィロソフィーを掲げ、それを具現化するため、日々製品開発に励んでいる。しかし、そのいっぽうで、音の聴こえ方というのは人によって大きく異なっているのも事実。メーカーの目指す音をすべての人に同じクオリティで提供するのはかなり難しいと言わざるを得ない。
そんな長年の難問の解決に挑み、イヤホンの歴史を1歩進めるべく登場したのが、デノンの新しい完全ワイヤレスイヤホン「Denon PerL」シリーズだ。詳しくは次章で紹介するが、本シリーズは医療技術を応用したデノンならではの高度なパーソナライズ機能「Masimo AAT(Adaptive Acoustic Technology)」を搭載することで、1人ひとりの聴覚に合わせた“オーダーメイドサウンド”を実現。デノンが考える最高のサウンドを誰にでも等しく提供できる意欲作になっている。
パーソナライズ機能
医療技術を応用した
「Masimo AAT」が1人ひとりに最適化された
最高のデノンサウンドを届けてくれる
ここからは、「Denon PerL」シリーズの最大のトピックであるパーソナライズ機能「Masimo AAT」について深掘りしていこう。
デノンならではの「Masimo AAT」は、新生児の聴覚検査にも用いられる医療技術を応用したテクノロジーで、装着したイヤホンから再生されるテストトーンを受けた内耳で生じる微弱な音を高感度マイクで集音することで、外耳だけでなく、中耳や内耳の聴覚細胞の活性化具合をチェックする。これによって解析されたユーザーの聴覚特性(聴覚プロファイル)に合わせて、周波数特性や音圧を最適化することで、“誰でも最高のデノンサウンドが楽しめる”というものになる。

人の聴覚はある一定の音が耳に入ると、蝸牛内で入ってきた音とは異なる周波数の音が作られ、その微弱な音が耳小骨のある中耳を通して外耳道内に放射される。この音を高感度マイクで集音し、測定&解析して聴覚プロファイルを作成するのが、パーソナライズ機能「Masimo AAT」だ

パーソナライズ機能「Masimo AAT」は、1人ひとりのユーザーの聴こえ方を分析し、その結果に基づいてデノンのターゲットカーブへ近づくようにイコライジングすることで、デノンが理想とするサウンドを耳へと届けてくれる
ここまで高度な技術だと、「パーソナライズを行うのは大変なのでは?」と思われるかもしれないが、その実施方法は非常に簡単だ。まずは静かな部屋で、専用アプリ「Denon Headphones」を立ち上げてスマートフォンとイヤホン本体をBluetooth接続し、アプリ上の「プロファイル追加」のボタンを押す。その後は、アプリの画面に表示された指示にしたがって決定ボタンを押していけば、ものの3分ほどで、聴覚プロファイルの作成からパーソナライズ、外音取り込み機能やタッチ操作の設定まで完了できる。
そして「Masimo AAT」の大きな特徴となるのは、一般的なパーソナライズ機能のようにイヤホンから音が聴こえてきたらボタンを押して判断する、というものではないことだ。人の手でボタンを押す方式だと、測定する人の感覚に頼るので、人によりばらつきが出るし、その時の体調や集中力などの違いによって押すタイミングに微妙なズレが生まれてしまうが、「Masimo AAT」では、聴覚特性の測定をイヤホンと専用アプリが全自動で行うため、人による“あいまいな感覚”が入る余地がない。誰でも簡単に、しかも正確なパーソナライズを実現できることこそが「Masimo AAT」の最大の強みなのである。

パーソナライズ機能「Masimo AAT」は、デノンの新しいスマートフォンアプリ「Denon Headphones」のホーム画面にある「プロファイル追加」から行える。周囲が騒がしいと聴覚プロファイルの生成に影響がでるため、できるだけ静かな環境で実施したい
「Masimo AAT」の実施は全自動のため、とても簡単だ。まずは、イヤホンが適切に装着されているかをテストし、問題ないと判断された後は自動的にテストトーンが流れて聴覚プロファイルが作成される。この聴覚プロファイルを元にパーソナライズが行われるのだ。その後は、ノイズキャンセリング機能やタッチコントロールなどの設定を行うが、全行程合わせても3分程度で完了するため、手間に思うこともないだろう※アプリ画面は2023年6月時点のものです
「Masimo AAT」で生成した聴覚プロファイルを元に、パーソナライズを行った後の聴覚特性図が上記だ。なおこの図は、12時方向から時計回りに低音域→中音域→高音域を表しており、筆者の聴覚特性(紫色の部分)は、低音域よりの中音域に関しては人よりもやや劣るが、中音域よりの低音域と中音域よりの高音域は人よりもよく聴こえている、ということになる。この情報を元に、デノンのターゲットカーブへと合うように最適化するわけだ。ちなみに、左右の耳の聴覚特性を別々に確認することもできるが、思った以上に聴こえ方が違っているのが面白い
別の価格.comスタッフの聴覚プロファイルを見ると、その結果はまったく違うものとなり、人それぞれで聴こえ方が異なるということが改めて浮き彫りになった。なお、聴覚プロファイルはPerL1台につき3人分まで保存することが可能で、切り替えて使用することもできる
φ10mmの大型ダイナミックドライバー搭載で
深みのあるサウンドが味わえる
とはいえ、このような高性能なパーソナライズ機能を生かすには、イヤホンそのものの性能も重要だ。その点、110年を超える歴史を持つ老舗オーディオメーカー、デノンの完全ワイヤレスイヤホンのハイエンドモデルらしく、「Denon PerL」では、完全ワイヤレスイヤホンとしては大型となる、φ10mmの高性能なダイナミックドライバーを採用している。さらに、サウンドチームが徹底的にチューニングを行うことで、デノンらしい“Hi-Fiサウンド”が追求されているという。
パーソナライズの効果とあわせてその実力を確かめるため、iPhone と接続してさまざまな音源を再生してみたが、パーソナライズによる音質の変化に何よりも驚かされた。もちろん、パーソナライズをしていない素の状態でもフラットなサウンドで悪くはないのだが、パーソナライズを適用すると、中低音が分厚くなるうえ引き締まり、頭の中に広がるステージが立体的になって、ボーカルがより生々しく聴こえるようになる。ジャズの楽曲はまるでステージの最前で聴いているかのようで、フルオーケストラの交響曲では音数が増えたようにさえ感じられた。デフォルトモードとパーソナライズモードではもはや別物と言っていいレベルで、パーソナライズをオフにしてしまうと「あれ、こんなに平面的だった?」という感想を持つほど。一度パーソナライズをオンにして聴いてしまうともうオフには戻せない。「Masimo AAT」のパーソナライズにはそれだけの魅力と衝撃があった。
使い勝手
5種類のイヤーピースと2種類のウイングが付属しているから、安定した装着感が得られる
続いて、「Denon PerL」の装着感や機能性についてチェックしていこう。IPX4の防滴仕様となっている円形状のボディは、最近の完全ワイヤレスイヤホンとしては大柄だが、重さは7.4gと平均的なため、長時間装着しても耳の負担は大きくない。しかも、シリコンタイプのイヤーピースが4種類(XS/S/M/L)と、耳にピッタリと張り付くフォームタイプのイヤーピースが1種類付属しているうえ、耳介に引っ掛けることでフィット感を高めるウイングアタッチメントも2種類用意されており、安定した装着感で快適なリスニングが楽しめる。
落ち着きのあるマットブラックのハウジングに、デノンのロゴがさり気なく入ったモダンなデザインのイヤホン本体。あらゆる方向からの水の飛沫に耐えられるIPX4の防滴仕様なので、雨やスポーツの汗も気にすることなく使用できる
イヤーピースとして、シリコンタイプのものがL/M/S/XSの4種類、低反発ポリウレタンを採用したフォームタイプが1種類付属している。フォームタイプのイヤーピースはつぶしてもすぐに元の形に戻るため、フィット感が高く密着性にすぐれている
耳の形にフィットするように設計されたシリコン製のウイングアタッチメントも2種類付属。今回、長いウイングを採用したアタッチメントを使ってみたが、ウイング部が耳介にしっかり入り込むため安定感は抜群。頭を強めに振ってもびくともせず、ずれることはなかった
機能面では、昨今の完全ワイヤレスイヤホンのトレンドであるノイズキャンセリング機能をしっかりと搭載していることに注目したい。「Denon PerL」は、ハウジングの外側に備えられたフィードフォワードマイクと、ハウジングの内側にあるフィードバックマイクでノイズを高精度にモニタリングすることで、すぐれたノイズキャンセリング性能を実現する「ハイブリッド・アクティブ・ノイズキャンセリング」機能を採用しており、視聴環境のノイズレベルに左右されることなくも、静寂の中でデノンならではの高音質サウンドが楽しめるようになっている。
ノイズキャンセリング機能を試してみたが、周囲のノイズを完全に抑え込むというわけではなく、音楽鑑賞に影響が出そうな中低音域の騒音を中心に自然に抑えてくれる、という印象であった。また、周囲の音をマイクで取り込み、聴き取りやすくする「ソーシャルモード」も搭載しているので、イヤホンを着けたまま店員とスムーズにコミュニケーションが取れる
左右のハウジングにはタッチセンサーが備わっており、触れることでさまざまな操作が行える。専用アプリ「Denon Headphones」から操作の割り当てをカスタマイズすることも可能で、左右4つずつまで割り当てられる
フラッグシップモデル
空間オーディオや高音質コーデックに対応し、
機能も充実した「Denon PerL Pro」
ここまでプレミアムモデル「Denon PerL」に注目してきたが、よりすぐれた音質や機能を備えたフラッグシップモデル「Denon PerL Pro」も見逃せない。
パーソナライズ機能こそ「Denon PerL」と同等だが、「Denon PerL Pro」は、Φ10mmダイナミックドライバーに、音質を追求した3レイヤー・チタニウム振動板を採用。さらに、「Qualcomm Snapdragon Sound」に対応したことで、ハイレゾ音源の再生も可能な「aptX Adaptive」や、最大44.1kHz/16bitのロスレス伝送が行える「aptX Lossless」の高音質コーデックが使えるうえ、スウェーデンのDirac Research社が開発した空間オーディオ「Dirac Virtuo」も体験できるなど、フラッグシップモデルにふさわしい仕様になっている。なお、5バンドのイコライザー機能が用意されているので、パーソナライズ後の音をさらに自分好みに調整しやすいのもありがたい。
このほか、周囲の騒音に合わせて効きを調整してくれるアダプティブ・ノイズキャンセリング機能を備えているうえ、骨伝導マイクを含む4つのマイク(左右それぞれ、Denon PerLは2つ)によって通話性能にすぐれていたり、充電ケースがQi規格のワイヤレス充電に対応していたりするなど、機能面においても「Denon PerL Pro」のほうが充実している。予算が許すのであれば、ぜひ「Denon PerL Pro」にも注目してほしい。
まとめ
イヤホンを新たなステージへと導く、エポックメイキングな完全ワイヤレスイヤホン
1人ひとりの聴覚に合わせてイヤホンやヘッドホンのサウンドを調整してくれる「パーソナライズ機能」。今では、こうした機能を搭載したモデルも珍しくなくなりつつあるが、いちいち手動で特定の周波数帯域が聴こえているかどうかをチェックしたり、そもそも精度があまり高くなかったりして、“まだまだこれからの技術”という印象は拭えなかった。
そんななか、新生児の聴覚検査にも用いられる医療技術を応用することで、誰でも簡単に最高のデノンサウンドが得られるパーソナライズ機能「Masimo AAT」を搭載して登場した「Denon PerL」は、まさにイヤホンを新たなステージへと導いてくれる、エポックメイキングなモデルと言えるだろう。実際、その効果は凄まじく、一度パーソナライズをしてしまうと、もうこれなしで音楽を聴くことは考えられなくなるほど、サウンドクオリティの向上が感じられた。もし、高音質な完全ワイヤレスイヤホンの購入を検討しているのであれば、一度「Denon PerL」を試してほしい。きっと、画期的なパーソナライズ機能のトリコになってしまうはずだから。