デノンサウンドバーの新基準「DHT-S218」
テレビの前に置くだけで音質を簡単に改善できるサウンドバーは、テレビ番組や動画配信サービスの視聴だけでなく、Bluetooth接続などで音楽再生に使えるスピーカーでもある。さまざまなサウンドバーが発売される中、スピーカーとしての本質と言える音のよさで価格.comでも人気を得ているのがデノンの製品だ。シンプルなワンバータイプの新製品「DHT-S218」は、音質へのこだわりをさらに突き詰めたという注目モデル。ここでは、デノンのサウンドバーへの取り組みや、新製品の音質をチェックしていこう。
01音楽も楽しめる音質志向のサウンドバーなぜデノンのサウンドバーが選ばれるのか?
はじめにお伝えしたいのは、「DHT-S218」が110年以上続くオーディオメーカーであるデノンが本気で取り組んだサウンドバーであること。デノンのサウンドバーとしては最も安価なエントリーモデルだが、6つものスピーカーユニットを搭載し、オーディオメーカーの流儀で設計されている。

スピーカーユニットの部分を拡大すると、外側に高域を再生する25mmツイーター、その右に低域を再生する45×90mm楕円形ミッドレンジが並んでいることがわかる。さらに、図の右に見えるグレーのユニットが最低域を受け持つ75mmサブウーハーだ
上記のように「DHT-S218」は受け持ち帯域の異なる3つのユニットを組み合わせた3ウェイ6スピーカー構成の本格派。さらに注目すべき要素として、「サウンドマスター」によるチューニングが施されていることがあげられる。
デノンでは、すべての製品の音質が「サウンドマスター」と呼ばれるひとりのエンジニアによって最終決定されるのだ。高級製品から「DHT-S218」のようなエントリーモデルまで例外はなく、すべてが手抜きなしに設計・チューニングされる。これが110年以上続くオーディオメーカーの流儀であり、高い信頼性と音質、ひいてはユーザーからの支持を得るためのバックグラウンドとなっている。
ハイファイオーディオ機器だからこそ
できる「Pure」モード
また、「DHT-S218」はサラウンド効果を足さない「Pure」というサウンドモードを持っている珍しいサウンドバーでもある。これはサウンドバーに入力された音声信号をデコードした後にアンプへ直接送り込むモードのこと。DSP(デジタルシグナルプロセッサー)で行われるバーチャル(仮想)サラウンド処理をバイパスし、高純度(ピュアな)再生を目指す趣旨だ。
一般的なサウンドバーでは、2chステレオの音楽でもサラウンド効果を足すモードで再生するしかないケースが多い。しかし、デノンは「Hi-Fi」(ハイフィデリティ=高忠実度再生)オーディオ製品を展開するメーカーであり、サウンドバーでも高忠実度再生を行うためのモードを用意したのだ。
多くのユーザーにとって、サウンドバーで再生するのは映画などのサラウンド(5.1chやDolby Atmos)コンテンツだけではないはず。特に音楽を再生する際にこの「Pure」モードを使えば、余計なものを足すことなく、素材そのものを味わえるというわけだ。
こう説明すると、一般的なサウンドバーもそうすればよいのでは、と思われるかもしれない。しかし、音源の高忠実度再生は、そもそもスピーカーの実力がなければとてもかなわない。バーチャル処理なしに音楽を再生しても、当たり前にまっとうな帯域バランスで再生できる、そのこと自体がデノン製サウンドバーの品質のよさを物語っているのだ。
また、サラウンド効果がかからない再生モードを用意したことは、「映画だけでなく、音楽もじっくり楽しんでください」というデノンからのメッセージでもあるだろう。
人気モデルの音質がさらにブラッシュアップされた
3ウェイ6スピーカーの本格派であること、オーディオ機器としての作り込みに徹底的にこだわっていること、そのうえで「Pure」モードを搭載すること、こうした特徴は実は「DHT-S218」のオリジナルモデルと言える2019年発売の「DHT-S216」から一貫している。
「DHT-S218」は「DHT-S216」から数えて3代目となるモデルであり、代を重ねるごとに「アコースティック」「エレクトロニクス」「サウンドデザイン」をそれぞれブラッシュアップしてきたそうだ。
初代の「DHT-S216」ではスピーカーとしての基本音響設計、つまり「アコースティック」面が作り込まれ、2022年に発売された2代目モデル「DHT-S217」では「Dolby Atmos」およびロスレスオーディオのデコードに対応するなど「エレクトロニクス」技術の面で進化を遂げていた。
そして「DHT-S218」でブラッシュアップされたのは「サウンドデザイン」。これは、デノンの音質の番人たる「サウンドマスター」によって、さらなる音質チューニングが施されたということ。「Pure」モードだけでなく、音楽再生向けの「Music」、映画再生向けの「Movie」モードについても「サウンドマスター」がより深く手を入れることで、よりハイファイにDolby Atmosなどのサラウンドコンテンツを楽しめるようになったという。
「DHT-S217」は価格.com「ホームシアター スピーカー」カテゴリの注目ランキング・人気売れ筋ランキングの上位常連であり、2024年4月15日時点の注目ランキングを見ても1位という人気製品。それがさらにブラッシュアップされたのが「DHT-S218」というわけだ。次章では「DHT-S217」から進化した機能性についても見ていこう。
02“初めて”でも安心の充実したスペックと新機能「Dolby Atmos」&ロスレス対応に加えて
LE Audioにも対応
ここまでのとおり、「DHT-S218」の特徴のひとつはオーディオメーカーならではの音質へのこだわりにある。そのいっぽうで、基本的なスペックがとても充実しているため、誰にとっても使いやすい製品であることも、見逃せないもうひとつの特徴だと言える。
まず、「DHT-S218」はロスレスのDolby Atmosのデコードに対応している。Dolby Atmosとは、Amazonプライム・ビデオやNetflixなどでも採用されている三次元に(水平だけでなく垂直にも)広がる立体音響のこと。Dolby TrueHDというロスレスオーディオにも対応しているので、ブルーレイレコーダーやプレーヤーあるいは「PS5」などのゲーム機と組み合わせて高音質を楽しみたいというユーザーにとってもうれしい仕様だ。
ここで役立つのはHDMI入力端子であることは言うまでもないだろう。エントリークラスのサウンドバーは、HDMI入力を持っていないこともあるが、「DHT-S218」はeARC/ARC対応のHDMI出力端子だけでなく、しっかりHDMI入力も備えている。さらに、新機能としてHDMI入力が「VRR(Variable Refresh Rate)」「ALLM(Audio Low Latency Mode)」に対応した。
「VRR」とは可変リフレッシュレートのことで、ゲームなどの映像ソースのフレームレートに合わせてディスプレイのリフレッシュレートを調整する機能のこと。また、「ALLM」とは最新テレビにある画質優先モードと低遅延優先モードを自動的に切り替えてくれる機能のこと。どちらも主にゲームユーザーに役立つ機能だ。ゲーム機とディスプレイ(テレビ)の間に「DHT-S218」を挟んで接続しても、「VRR」「ALLM」が動作するので、ゲームを高音質で楽しみたいという場合にもぴったりの選択だと言える。

シンプルに使うならば、写真のようにeARC/ARC対応のHDMI出力とテレビのeARC/ARC対応HDMI端子をつなぐだけでOK。テレビの音声が「DHT-S218」から出力されるうえ、テレビのリモコンで音量調整が行える。さらに、HDMI入力を備えているので、ブルーレイレコーダーや「PS5」などのゲーム機、「Apple TV 4K」や「Fire TV」シリーズなどとの接続も可能だ
Bluetoothの新規格「LE Audio」に対応
「DHT-S218」に追加されたもうひとつの新機能は、Bluetoothの新規格「LE Audio」への対応だ。新規格への対応にともない、高音質で低遅延、しかも安定した伝送を期待できるコーデック「LC3」を利用できるようになった。
先述のとおり、「DHT-S218」は音楽再生にも積極的に使いたいサウンドバー。従来モデル「DHT-S217」ではBluetoothの対応コーデックはベーシックな「SBC」のみだったので、「LC3」を利用できるようになったことは、音楽再生機能の強化だと言ってよいポイントだ。
ただし、「LE Audio」の機能や「LC3」コーデックを使うためには、スマートフォンなどの送信側も「LE Audio」に対応する必要があることに留意したい。現状では「LE Audio」に対応するスマートフォンは多くないが、「LE Audio」は次世代のスタンダードと目されるBluetoothの規格。今後のために「LE Audio」対応のサウンドバーを選んでおくのは合理的な選択だろう。
実際に「LE Audio」に対応するスマートフォン「AQUOS R8 pro」を使い、「LC3」コーデックでの音楽再生を行ったところ、「SBC」での音楽再生よりも音質はすぐれていることを確認できた。それも「少し情報量が増えた……」という類いの変化ではなく、音楽の厚みがグッと増して、音質が一段上がったと実感できるレベル。Bluetoothでの音楽再生を検討しているユーザーは注目してほしい機能だ。
03“深化”した音質 「Pure」「Music」「Movie」すべてのモードで
ハイファイ度が増している!
さて、いよいよ「DHT-S218」の音質をチェックしていこう。まずは「Pure」モードを使って2chの音楽から。せっかくHDMI入力のある製品なので、「Apple TV 4K」をHDMI入力につないで、Apple Musicを再生してみることにした。この形ならば、CDと同等以上の「ロスレス」音源を再生できるため、音質的にも有利なのだ。アマゾンの「Fire TV」シリーズでAmazon Musicを再生するのもよいだろう。
期待どおり、何を聴いてもちゃんとハイファイでうれしくなる。安価なサウンドバーは中低域を強調するような派手な演出があったりするものだが、「DHT-S218」の「Pure」モードはそういう不自然さがないのだ。無理をしてどこかの帯域を強調していないから、ほかの帯域がマスキングされて聴こえづらくなってしまうこともない。解像感を求めて高音だけがキンキンとしてしまうようなこととも無縁で、コスト的な限界を感じさせないさすがの仕上がりだ。
あまり分析的に音楽を聴くのもどうかという話もあるが、「DHT-S218」で音楽を聴いていると、「この音源は面白いぞ」とつい音源のよさにも注目したくなってしまう。
面白かったのは離婚伝説の「愛が一層メロウ」。弾力のあるベースやキックの低音はしっかり出ているいっぽうで、ギターのカッティングやコーラスはカラッと乾いた風合い。確信犯的に厚みのない仕上がりにしているのではないか。「Pure」モードでの再生ではそういう音源の質感を明確に再現してくれる。
もちろん、2chの音楽再生で「Music」モードを使ってもOK。こちらでの再生は少しリッチな響きと広がりが付加されて、それはそれで気持ちよく音楽に没頭できた。シビアに音楽を聴くと言うよりは楽しさ優先、BGM的に音楽を流す際にぴったりという印象だ。これも「サウンドマスター」によるさらなるチューニングの成果だろう。
映画も音楽も楽しいDolby Atmos再生
さらに、サラウンド音源の再生をしてみよう。Dolby Atmosと言えば映画と思われがちだが、現在は多くの楽曲がDolby Atmosで配信されている。「Apple TV 4K」でApple Musicを再生したのは、Dolby Atmosの音楽を再生してみたかったという理由もあってのことだ。
取材時の「ベストニューソング」に表示されたのは、YOASOBIの「アイドル」、藤井風の「満ちてゆく」など。「アイドル」を「Music」モードで再生すると、細かく動くベースラインの明瞭度はそのままに、左右と特に奥行き方向に大きく空間を広げてくれる。「Pure」モードで聴く2ch音源とは世界観自体が異なると言いたくなる変化だ。
古い作品では、ディアンジェロの「Voodoo」だってDolby Atmos化されている。「Music」モードで聴く「Playa Playa」は「アイドル」以上にホーンの音が左右にグッと広がり、多重になったコーラスが中央広めに並ぶ。ミックスの違いがダイレクトに表れているのだろう。ベースの弾力も、カッティングの切れ味も、ボーカルの明瞭さも失われない。「DHT-S218」で再生するDolby Atmosの音楽には、スピーカーでDolby Atmosを聴く楽しさがあふれている。
Dolby Atmosの映像作品再生となれば、やはり「Movie」モードを使いたい。特に話題作はDolby Atmosで配信されていることが多い。Netflixの「三体」を「Movie」モードで再生すると、「シーズン1-1」冒頭のシーンから群衆の声に包まれ、いきなり物語の世界に引き込まれた。いっぽうでマイクを通した声は埋もれずに大学の広場にこだまする。広い空間表現でこういう響きの違いを明確に提示してくれるのだ。
890(幅)×120(奥行)×67(高さ)mmという「DHT-S218」のコンパクトなサイズから言えば、組み合わせが想定されるテレビは55V型くらいまでだろうと思っていたのだが、この空間の再現性ならば、65V型以上の大画面とも釣り合いそう。場合によっては、プロジェクターを用意して100インチ前後の画面サイズと組み合わせてもよいだろう。絶大な没入感を得られるはずだ。
チューニングの効果は「Music」「Movie」モードで顕著
ちなみに、従来モデル「DHT-S217」と「Pure」モードで直接音質を比べてみると、「DHT-S218」のほうが明らかにハイファイだ。「DHT-S217」も単体で聴いていれば不満はないのだが、比べると少し重心が高いなと感じてしまう。その点「DHT-S218」は中低域が充実して重心が下がり、どっしりとした安定感がある。
「Music」や「Movie」モードで比較すると、その差はさらに顕著だ。「DHT-S217」ではやや過剰に思える部分のある中低域が鳴りをひそめ、「DHT-S218」では細かな音の情報が浮き上がってくるよう。凝った音響設計の映画作品では音の移動感が明瞭になり、全体がすっきりと見通しのよい表現になるため、登場人物のセリフの通りも段違いによい。Dolby Atmos対応サウンドバーとしての価値が一段上がったと言える変貌ぶりだった。
スピーカーとしての基本スペックは「DHT-S217」と同等のはずなのだが、ここまでの違いが出ることに驚かされるばかり。「サウンドデザイン」に手を入れたことの結果は、熟成の“深化”と言うべきだろう。
04まとめ さらに完成度を高めたハイコスパモデル
スピーカーとしての音のよさを追求した「DHT-S218」は、没入感の高い映画再生にも、真剣な音楽再生にも真っ正面から応える非常に誠実な製品だ。ワンバータイプのシンプルな構成ながらHDMIは入出力を装備し、ロスレスを含むDolby Atmosのデコードが可能、Bluetoothの新規格「LE Audio」にも対応して、手軽によい音を楽しむための機能は従来モデルからさらに充実している。
そして「Pure」モードだけでなく、Dolby Atmos再生に必要な「Music」や「Movie」モードの音質がブラッシュアップされ、コンパクトなボディに必要十分なスペックを詰め込んだ人気モデルは完成度を上げたと言える。
もちろん、そこではサウンドバーとして必須となる手軽さ、便利さは何も損なわれていない。ベーシックな接続方法は、テレビとHDMIケーブルでつなぐだけ。それで映画も音楽も、普段視聴するテレビ番組も音質向上するのだから、ハイコストパフォーマンスであることは疑いようがない。エントリーモデルとして死角が見当たらない「DHT-S218」は、ワンバータイプのサウンドバーにおけるデノンの新基準なのだ。