写真家・河野鉄平さんのプロフィール
フォトグラファー。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。著書はこれまでに50冊以上。最新著書は『超絶エモーショナルな写真を撮る50のアイデア』(玄光社)。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など写真展も多数。日本写真芸術専門学校講師。Profoto公認トレーナー。
富士フイルムの「instax™“チェキ”」シリーズは、撮影したその場でプリントが楽しめるインスタントフォトシステム。大切な瞬間を“撮る”だけでなく、想いを“伝える”ツールとして活躍するカメラだ。「instax WIDE Evo™」は、そんな「instax™“チェキ”」シリーズの最新モデル。クラシックな雰囲気のボディに、チェキ™史上最広角レンズと多彩な撮影機能を搭載し、クリエイティブな写真撮影を存分に楽しめる。本特集では、写真家の河野鉄平さんが「instax WIDE Evo™」を徹底レビュー。作品づくりを通して感じた、このカメラでしか得られない魅力を紹介しよう。
「instax WIDE Evo™」は、カメラとしてもスマホプリンターとしても使える、ハイブリッドインスタントカメラ。背面の液晶モニターを見ながら撮影しつつ、撮影した画像の中からお気に入りの1枚を選んでチェキプリント™にできるのが大きな特徴だ。しかも、通常のカードサイズ(86×54mm)の2倍の大きさとなる86×108mmサイズのワイドフォーマットを採用しているので、より大きなサイズで迫力のあるプリントを楽しめるのがうれしい。デジタルでもアナログでも“写真”をとことん楽しめるカメラなのである。
今回、そんな「instax WIDE Evo™」をじっくり使ってみたのだが、まず印象に残ったのが外観デザイン。ブラックとグレーを基調にしたスクエア形状のボディは、アナログの“写真機”らしさを強く感じる正統派の仕上がりだ。クラシックな雰囲気を大事にしつつ、シャープな印象を持つボディはとても高級感がある。
外観デザインとともに、カメラとしてのこだわりを強く感じるのが操作性だ。次項で詳しくレビューする「レンズエフェクト」と「フィルムエフェクト」を左右のダイヤルで直感的に変更できるほか、レバーを押し下げることでシャッターが切れるシャッターレバーや、時計回りにレバーを回転させることでプリントできるプリントクランクなど、独自の操作性をふんだんに採用。写真機としてのアナログ操作を存分に楽しめるようになっている。“撮っている”感覚を強く感じられるのがよく、「使っていて楽しいカメラ」だと感じた。
液晶モニターの左手側に「レンズエフェクト」を切り替えるダイヤルを、右手側に「フィルムエフェクト」を切り替えるダイヤルを装備。左右のダイヤルは、このカメラを楽しむうえで最も利用頻度の高い操作系だ。クリック感のあるダイヤルなので心地よく操作できる
「instax WIDE Evo™」を使ってみて驚いたのが、非常に充実した撮影機能を搭載していること。「instax™“チェキ”」シリーズのハイブリッドモデルは、エフェクト機能などを使ってユニークな写真を撮影できるのが特徴だが、「instax WIDE Evo™」はその選択肢の幅がさらに広がっている。まずは、どういったことができるのかを整理しておこう。大きく4つの機能を組み合わせて撮影できる。
「instax WIDE Evo™」のスペックで目を引くのが、チェキ™史上最も広角なレンズを搭載していることだ。35mm判換算で焦点距離16mm相当という超広角で撮影を楽しめるようになっているのだ。スイッチひとつで通常モード(ノーマルアングル)と広角モードを簡単に切り替えられるのが便利だ。
名称に“WIDE”が付いているように、「instax WIDE Evo™」は広角モードに切り替えられるのが大きな特徴。広角モードでは焦点距離16mm相当(35mm判換算)の超広角で撮影できる
「レンズエフェクト」は、レンズが生み出す独特の効果を再現するハイブリッドモデルならではの機能だ。「instax WIDE Evo™」では、光が差し込むような演出が楽しめる「ライトプリズム」や、周辺にかけてモノクロになりボケ効果も加わる「モノクロ周辺ボケ」、マゼンタからグリーンの色の変化が印象的な「カラーグラデーション」といった新しいエフェクトを含む計10種類を搭載。より多彩な撮影が行えるようになっている。
驚かされるのは、0〜100の間で効果の度合いを細かく調整できること。エフェクトの種類によって変化の仕方が異なるのが凝っていて、「ビネット」「ソフトグロー」「二重露光」「色ずれ」「モノクロ周辺ボケ」は“効果の強さ”が数値に合わせて変化する。いっぽう、「光漏れ」「ライトプリズム」「カラーグラデーション」「ビームフレア」は“効果の入り方”が変化する仕様だ。
10種類の「レンズエフェクト」を用意。「ライトプリズム」「ソフトグロー」「モノクロ周辺ボケ」「カラーグラデーション」「ビームフレア」が新たに追加されている
「色ずれ」の効果
「色ずれ」などのエフェクトは、数値が大きくなるほど効果そのものが強まっていく。このサンプルでは、色のずれが大きくなっていくことがわかる
「ライトプリズム」の効果
「ライトプリズム」などはダイヤルを回すことで効果の入り方が変化する。このサンプルでは、度合いによって光が差し込む効果の位置や大きさが変わっている
「instax WIDE Evo™」は、「レンズエフェクト」のほかに、フィルムカメラで撮ったかのようなテイストを楽しめる「フィルムエフェクト」も利用できる。こちらも「レンズエフェクト」と同様、10種類から選択可能。少しメリハリのある暖色の色合いに仕上がる「ウォーム」や、ノスタルジックな雰囲気が心地よい「ライトグリーン」、さわやかな雰囲気のトーンが得られる「サマー」などが新しく追加されている。
フィルムのような独特のカラー効果が得られる「フィルムエフェクト」。「instax WIDE Evo™」では、「ウォーム」「スカイブルー」「ライトグリーン」「マゼンタ」「アンバー」「サマー」などが新たに加わった
「フィルムスタイル」は、上下に黒帯が入った映画のような雰囲気になる「シネマティック」や、写真に日付が入れられる「デートスタンプ」など、アクセントになる効果を追加できる機能だ。古い写真技法である湿版調に仕上がる「湿版印刷」や、フィルムのようなデザインになる「フィルムストリップ」といったユニークなものも用意されている。
「instax WIDE Evo™」のすごいところは、これらの撮影機能をすべて掛け合わせられること。何と10万通り以上というほぼ無限と言ってもよい数の選択肢のなかから、自分好みの表現を選べる。ほかのカメラでは得られないような、ひと味違った写真を簡単に撮影することが可能なのだ。
ここからは、10万通り以上の写真表現を作品づくりにどう生かせるのか? をテーマに、実際に撮影した作例を掲載しながら、「instax WIDE Evo™」の撮影機能をレビューしていこう。作例は、写真表現にマッチしたフィルム(ホワイトもしくはブラックのフレーム)を選びながらプリントしている。フレームを含めての作品としてチェックしてほしい。
「instax WIDE Evo™」の撮影機能のなかで、まず押さえておきたいのが広角モードだ。チェキ™史上最広角の焦点距離16mm相当(35mm判換算)という、視界よりもはるかに広い画角は、違いを生むのに役立つ。単に景色を広くとらえられるだけでなく、被写体に近づくことで、遠近感を強調しながら周囲を広く入れ込んだダイナミックな描写が得られるのだ。主題への寄り引きの仕方を工夫することで、印象的な写真を撮れるのが非常に面白い。
しかも、「instax WIDE Evo™」は、スタンダードなミニフォーマットよりも大きなワイドフォーマットでプリントできるので広角表現との相性が非常によい。以下に掲載する作例は、すべて広角モードで撮影してチェキプリント™にしたもの。大きなワイドフォーマットのよさが存分に発揮されている。
伸びる曲線を広角域で強調しながら撮影。こうした躍動感のある画作りができるのは超広角だからこそだ。
手前の看板にグッと近づき遠近感を強調しながら人物を撮影。こうした奥行きのある場所をうまく活用すると、広角表現は持ち味が増す。
広角で被写体に近づくと、背景を広く取り込みながらダイナミックな表現が楽しめる。ここではレンズエフェクトをビネットにすることで、中央の植物がより強調されている。
「instax WIDE Evo™」は、撮影エフェクトや「フィルムスタイル」などを組み合わせることで10万通り以上の写真表現が可能になるが、これには自分好みの画作りを見つけ出す楽しさがある。気軽にエフェクトを使って撮影することもできれば、自分流にこだわりある画作りを模索することもできるのだ。
とはいえ、10万通り以上という数のなかで、どんなふうに組み合わせるのがよいのか使い始めは迷うこともあるだろう。そんなときは、わかりやすいイメージや雰囲気を先に決めて使ってみることをおすすめする。ここでは、「ふんわりやわらかいイメージ」と「重厚感のあるイメージ」で「レンズエフェクト」と「フィルムエフェクト」を重ね合わせた例を紹介しよう。
カラーグラデーション×サマー
カラーグラデーション×ライトグリーン
モノクロ周辺ボケ×アンバー
ビネット×ビビッド
個人的な見解になるが、「レンズエフェクト」の「ライトプリズム」「ソフトグロー」「カラーグラデーション」「ビームフレア」と、「フィルムエフェクト」の「ウォーム」「スカイブルー」「ライトグリーン」「サマー」の組み合わせは、ふんわりやわらかいイメージを演出しやすいように思った。
対して、重厚なイメージを得るには、「レンズエフェクト」の「光漏れ」「ビネット」「モノクロ周辺ボケ」と、「フィルムエフェクト」の「マゼンタ」「アンバー」「モノクロ」の組み合わせがやりやすかった。もちろん、これは被写体や光の条件などによっても変化する。自分でいろいろ模索する際の参考例としてとらえてほしい。
上に掲載した作例でも適宜使用しているが、「instax WIDE Evo™」は、露出補正やホワイトバランスの調整など、カメラとしての基本機能がしっかりしているのも押さえておきたい。これらの基本機能をうまく活用することで、エフェクトの効果をより強調することができる。
露出補正を暗めに設定して撮影した1枚。色の濃度が増している。露出補正は単に明るさだけでなく、色をより印象的に表現したいときにも有効だ。
今度は少し明るめに露出補正し、軽やかなイメージを強調した。明るめに補正する際は色が飛びすぎないように注意しよう。
中央の被写体が白く飛びすぎないように少し暗めに補正。明暗差のあるシーンでも、露出補正は有効な機能だ。
利用していてひとつ驚いたのが、顔検出の精度の高さ。人物が動いてもしっかり追尾しながらピントを合わせ続けてくれる。ポートレートや家族のスナップなどでは大きな役割を果たしてくれそうだ。
ここまでカメラ内の機能を中心に実際の使用感をレビューしてきたが、冒頭申し上げたように、「instax WIDE Evo™」は、背面の液晶モニターを見ながら撮影しつつ、撮影した画像の中からお気に入りの1枚を選んでプリントできるハイブリッドインスタントカメラだ。
つまりこれは、プリントすることで“モノとしての写真”を手にできるわけだが、そもそもこのチェキプリント™には、独特な風合いがあって感動する。モノとしての質感や立体感が、エフェクトによって演出された写真世界をさらに魅力的に引き立ててくれるのだ。モニターで見ている画像もいいが、チェキプリント™にすることで、さらにその写真のよさが際立つのである。
今回「instax WIDE Evo™」を使ってみて、ここが最も重要なポイントであり、「instax WIDE Evo™」で写真を撮る魅力なのではないかと思った。その場でプリントし、チェキプリント™ならではの風合いとともに像が浮き上がってくる感動は、一般的なデジタルカメラやスマートフォンでは決して味わえないものだろう。
「instax WIDE Evo™」で写真を撮る際は、チェキプリント™にするところまでが、ひとつの楽しさであることを改めてお伝えしておきたいと思う。
「instax WIDE Evo™」対応のワイドフォーマットフィルムにはホワイトとブラック、モノクロームがあるが、ここへ新たに「ブラッシュドメタリックス」が加わった。グラデーションが1枚ずつ異なるという、こだわりのフィルムだ
「instax WIDE Evo™」は、カメラとしてもスマホプリンターとしても使えるハイブリッドインスタントカメラだが、使い方の幅をさらに広げるツールとして、専用のスマートフォンアプリ「instax WIDE Evo™」※4が用意されている。
「instax WIDE Evo™アプリ」の機能で特に注目したいのが「Discover Feed」。「#instaxwideevo」のタグを付けてInstagram※5に作品を投稿すると「Discover Feed」のギャラリーにも作品が公開・掲載されるギャラリー機能で※6、「instax WIDE Evo™」を使用している世界中のユーザーと簡単に作品を共有することができるのだ。
ユニークなのは、「Discover Feed」で発見したほかのユーザーの作品と同じエフェクトを、自分の「instax WIDE Evo™」へお気に入り登録できること。自分の作品を披露する場としてだけでなく、ほかのクリエイターの作品を見て刺激を受けたり、お気に入りの作品と同じ設定で撮ってみたりすることもできるのだ。
さらに、アプリでは、スマートフォン内の画像をプリントできる「Direct Print」や、スマートフォンの遠隔操作でリモート撮影ができる「Remote Shooting」といった機能の利用も可能。カメラの楽しみ方や表現の幅が広がるアプリなので、ぜひ活用してほしい。
10万通り以上の写真表現を可能にするエフェクト機能を搭載し、16mm相当の広角モードが利用できる「instax WIDE Evo™」は、チェキ™としてのアナログ感を大事にしながら、今の時代に合わせた驚くべき進化を遂げたハイブリッドインスタントカメラだ。スマートフォンアプリとの連携でその楽しさが倍増するあたりも、まさしく「今の時代」を象徴したものと言えるだろう。デジタル時代の先端を行く究極のインスタントカメラなのだ。
さらに、クラシックな雰囲気でアナログの操作感を大事にしたボディも遊び心があって好印象。操作しやすいようにダイヤルやボタンの配置がしっかり練られていることも、実際に触っていて好感が持てる要素だった。
率直に言って、「instax WIDE Evo™」は非常に楽しいカメラだ。"写真って楽しいな〜"と素直に感じさせてくれる魅力がある。多彩なエフェクトを活用することで、目を引くシーンだけでなく、日常のささやかなシーンをもドラマチックな作品に仕上げてくれるので、使っているとどんどん写真を撮りたくなるのである。
ここで大事なことは、やはりその感動がチェキプリント™として手元に残ることだろう。やわらかくてやさしい独特な風合い。これはチェキプリント™だからこそ得られるもの。一般的なデジタルカメラやスマートフォンとは違った写真の魅力を、ぜひ「instax WIDE Evo™」で体験してみてほしい。
写真家・河野鉄平さんのプロフィール
フォトグラファー。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。著書はこれまでに50冊以上。最新著書は『超絶エモーショナルな写真を撮る50のアイデア』(玄光社)。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など写真展も多数。日本写真芸術専門学校講師。Profoto公認トレーナー。
風景を広く取り込んで撮影できた。オーソドックスな広角表現ではあるが、手前に人影を入れることで遠近感を強調してみた。