任天堂の「ニンテンドー3DS」とソニー・コンピュータエンタテインメントの「NGP」という次世代機が注目を集める中、「iPhone」や「iPod touch」の大ヒットにより携帯ゲーム機市場で存在感を高めつつあるのがアップルだ。iPodの生みの親である米アップルのワールドワイドプロダクトマーケティング、iPod担当シニアディレクターのスタン・イング氏は「iPod touchは世界市場で、ニンテンドーDSやPSPより売れている」と語り、世界でもっとも人気のあるゲーム機であることを強調する。
人気の理由は何なのかスタン氏に話を聞いた。
iPod touchの人気の理由
スタン氏によると、iPod touchの人気の理由は3つある。1つ目は、モバイル機器としては最高クラスの性能と豊富な機能。「Retinaディスプレイ」という960×640ピクセルの高解像度なディスプレイは、ニンテンドー3DSやNGPのディスプレイよりも高解像だ。解像度が上がれば、ゲームで高精細な表現が可能になる。A4プロセッサーとの組み合わせにより、専用ゲーム機に劣らないグラフィックス表現を実現している。カメラを使ったAR(拡張現実)ゲームにも対応できる。マルチタッチや加速度センサー、ジャイロセンサーなど各種センサーを使った今までにない操作方法もiPod touchのゲームでは、どんどん生まれている。ゲームだけでなく、音楽再生のiPod機能、映画、ビデオ通話「Face Time」、HDビデオ撮影など多芸だ。
AR(拡張現実)ゲームのTHQ「Star Wars Falcon Gunner」。Star Warsの実際の音楽などが使われている。アーケードゲームをiOSに移植したタイトルだ。ジャイロセンサーを使っており、ターゲットの向きに体を動かして遊ぶ
上記のような多くの機能と高いパフォーマンスを7.2mmの極薄のコンパクトボディーに盛り込んでいる。「大きさはニンテンドーDSの1/4」(スタン氏)。どこにでも持ち歩けることは、携帯ゲーム機の肝。どんなに高性能でも大きくて重ければ、家でしか遊ばなくなってしまう。
2つ目は35万以上のアプリをとりそろえる「App Store」。1年前は15万種だったので、この1年で20万も増えた。先日、100億ダウンロードを達成。「70億ダウンロードはこの1年で達成した。今、App Storeには勢いがある」とスタン氏は話す。いつでも好きなときにダウンロードできるゲームが数百もあり、それを持ち歩ける。カートリッジを使うほかのゲーム機ではこうはいかない。パッケージや物理的なメディアがないため、「アプリ自体の値段は、ものによっては1/10」(スタン氏)という安さも強みだ。
3つ目は「iOSプラットフォーム」。iPod touch向けに開発されたゲームやアプリは、iPhoneとiPadでも使える。スタン氏は「Androidを搭載したタブレット端末やスマートフォンは、端末ごとにユーザーインターフェースが異なる。お互いに同じアプリが使えないこともある。いわば同じAndroidでも分断している状況だ。対して我々のiOSはシームレスだ」と語る。
iPhoneは前年比86%増の2600万台を出荷、iPadは700万台を出荷し、タブレット市場の大半を占めている。「iPod touchを含め、1億6000万台のiOSデバイスが出回っている」(スタン氏)。この規模に開発者が着目し、大小多くのゲームデベロッパーがiOS向けにゲームを開発している。
スタン氏によれば、iPod全体の販売台数の半分以上がiPod touchになっているという。携帯音楽プレーヤーとして高い人気を維持するiPodシリーズだが、日本国内ではソニーの「ウォークマン」に厳しい追い上げを受けている。しかし、携帯音楽プレーヤーの枠に収まらないiPod touchの急成長は、もはやウォークマン対iPodという構図は成り立たなくなっていることを示している。スタン氏は、iPod touchをゲーム機として、2強であるニンテンドーDSとPSPよりも優れていることを強調していた。2001年10月に初代iPodが登場して今年で節目の10年。iPodは音楽、写真、映像、ゲームと多くのものを取り込みながら進化してきた。これから10年、どのように変化していくのか注目したい。