“商品ブランド=企業ブランド”が新領域開拓の足かせに
同社の池田欣史専務はCIリニューアルの経緯を次のように語る。
「『ヒビケア』は2007年に発売した商品だが、当初から売れ行きは好調だった。この分野は当時すでに成熟市場だったが、パフォーマンスの高い商品を開発することで、より深いニーズを掘り起こせたと考えている。技術的な革新が伴えばブレイクスルーは起こせると感じた。
しかし、定性調査を行った結果、『なぜムヒの会社からこういう商品が出るの?」と意外に感じているお客様が多いということもわかった。当社では現在、「ヒビケア」以外にも「デリケア」や「ケアレケア」といった新領域の製品を販売しているが、これらは従来の「ムヒ」というブランドのイメージに収まりきらない。そこで、地盤のしっかりしたひと回り大きい企業ブランドを育成する必要があると考え、『変身への挑戦』というスローガンのもと新しいCIに取り組むこととなった。
コミュニケーション面でも新しいトライアルを行うべく模索している最中だが、『ヒビケアはムヒの会社が作っています』ということを知ってもらうには、やはりこのシーズンが最適との考えから、現在『冬にもMUHI』のアピールに力を入れている」
これが創業100年を超える企業のチャレンジというところに注目されたい。この不況の中、池田模範堂は着実に業績を伸ばしているとのことだが、やはり変革への意識を持つ企業は強いのか。
「変身への挑戦」というスローガンは最近急にこしらえたものではなく、実はかなり昔から同社が大切にしている企業DNAのようなもののようだ。その創業スピリッツが池田模範堂を支え続けているのかもしれない。
池田模範堂は従業員260名とそれほど大きな企業ではないが、開発部門や工場部門が元気なのだという。社員の男女比率が半々で平均年齢は39歳、産休・育休が取りやすい(男性も)という職場環境も社内モチベーションを上げるのにひと役買っていそうだ。
新商品開発、CIリニューアルまでの動きに関して、「内部の力に揺り動かされるように、事業領域の見直しに着手した」と池田専務。虫さされ、かゆみ止めの分野でトップシェアを占める老舗ブランドのCI変更は、リスキーで勇気のいる行為だっただろう。
「(製品は)妥協せず、模範堂の名に恥じないものを作っている」(池田専務)ということだが、新CIを中心としたマーケティング施策に関しても“模範”となれるか? キャッチフレーズ「冬にもMUHI」の世間への“効き具合”も試されている。
(文/河尻 亨一=元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授)