操る楽しさのエッセンス21テクノロジー AOGT35C

吉本司自転車ジャーナリスト
スポーツ自転車歴38年のベテランであり、フリーの自転車ジャーナリスト。月刊自転車専門誌『サイクルスポーツ』での編集長経験を持つ。ロードバイクからeバイクまで車種を問わず機材、市場動向、レースに至るまで幅広い知見を持つ。これまで試乗した自転車は数百台。自費購入した自転車は85台にものぼる。
ロープライスとハイプライスに二極化する電動アシスト自転車。そこに圧倒的な低価格で切り込むのが、21テクノロジーからクロスバイクのコンセプトで発売される「AOGT35C」だ。価格だけではない、筆者の予想を超えたその魅力とは?
激安の6万円台
“物価高”や“値上げ”の文字がやたらと躍る今日このごろ。それは自転車業界でも例外ではなく、某国産メーカーが2022年6月1日から10〜30%の値上げを実施するなど、多くのメーカーが値上げに踏み切っています。こうした状況では、「少しでも安く手に入れたい」という思いがこれまで以上に強くなります。
そんな気持ちに“ザクッ”とくさびを打ち込んでくる電動アシスト自転車が21テクノロジー「AOGT35C」です。ママチャリタイプよりも高額になりがちなクロスバイクタイプなのに、税込価格はなんと6万9,800円(価格はすべて2022年12月22日時点)! 国産大手3社のクロスバイクタイプの電動アシスト自転車、ヤマハ「PAS Brace PA26B 2021年モデル 」の15万5,991円、ブリヂストン「TB1e TB7B42 」の14万4,997円、さらにパナソニック「ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 」の13万5,500円などと比べれば、これは実に半額近い激安プライスなのです。

メーカーの21テクノロジーはあまり耳慣れない新興ブランドですが、同社のウェブサイトによれば中国の自社工場で、開発・生産・販売までを一貫して行っているとのこと。これが安さを支えるひとつの理由といえそうです。
使いやすいシンプル設計
とはいえ低価格によろこんでばかりもいられません。重要なのは中身です。
AOGT35Cの特徴のひとつは電動アシストユニット。アシストユニットというと、車体の中央(センターモーター式)への搭載機種を多く見かけますが、AOGT35Cは後輪のハブに内蔵する方式(後輪モーター式)です。そのメリットは、駆動輪にモーターを搭載することで、パワーを無駄なく推進力へ変換しやすいこと。さらには構造をシンプルにできるのでコストが削減できるという2点です。


もうひとつの特徴は、アシスト力を調整するコントローラーをもたない、いわゆる“単機能型”電動アシスト自転車であることです。バッテリーに装着された電源スイッチを入れたら、その後の操作は一切不要でただペダルをこぐだけ。煩わしさがなく自転車任せに走ることができるので、誰にとっても使いやすく、機械操作が苦手な方や年配の方にもフレンドリーなのです。
任意でアシスト力の調整ができないので、アシストの細やかさや省エネ性能では劣る面もあります。しかしコントローラーを装備した多機能型の電動アシスト自転車であっても、実際にユーザーに聞くと「アシストモードは常にオートで固定」といった声が女性を中心に多いのも事実です。そんな使用の状況からすると、AOGT35Cは実情に即した割り切り仕様といえるでしょう。
また搭載される8.7Ahのリチウムイオンバッテリーは、国産電動アシスト自転車の入門機と同レベルの容量を確保しています。こうした動力仕様はそのロープライスを考えれば十分です。
大健闘の“激安車”
ブラック&レッドに彩られた車体はスポーティーな雰囲気です。
手ごろな価格と耐久性を両立するスチール製フレームは、一般的なクロスバイクの設計と比べてリアセンター(前ギアの中心から、後輪の中心までの距離)がかなり長め。一見違和感を覚えます。実測してみたところ一般的なクロスバイクの平均値である430mmほどより約100mm上回るのですが、これはバッテリーを後輪の前に置いた設計ゆえの寸法です。通常リアセンターの数値が長くなると加速が鈍くなるのですが、AOGT35Cは違った効果が期待されます。これは筆者の推測ですが、後輪モーター式の電動アシストユニットの装備によってリア側に偏ってしまった重量バランスを補正するとともに、走りが安定するメリットがありそうです。


さらにフレームの細部を見てゆくと、簡素化されたリアエンド(後輪のホイールの付け根)の仕様など、やはり価格なりに割り切った構造でした。とはいえ、パーツは制動力の高いVブレーキを前後に装備しつつ、6段式の変速機はシマノ製を選ぶなど、要点はおさえられており、また“頑張っている感”も見られます。アクセサリー類もスタンドやライトだけでなく、なんと泥よけまでも標準装備。きっと街乗りでの不自由も少ないでしょう。冷静に見てAOGT35Cの価格はかなり健闘しているといえそうです。
爆発的な加速パワーに酔う
事前の予想どおり、ホイールベースが長いおかげで走りは安定感に富んだものです。想像以上に乗り心地のいい700×35Cのタイヤも安定感の高さに貢献しています。この乗り心地をひと言で表すなら「ドッシリ」。この表現だと走りは鈍そうなイメージも受けるかもしれませんが、電動アシストの力が補ってくれるので心配ありません。

アシストは、ターボチャージャーのようなパワフルさを発揮します。走り出しでペダルを強く踏み込むと、暴力的ともいえるような加速。そのままペダルをこぎ続けると、平地ではあっという間にアシスト速度の限界領域(時速24km)まで到達。ラジコンカーがキュイーンと加速するような、このオモチャ感のある走りはとても爽やか!
なかなかにスポーティーです。その気持ちよさに、思わず不用な加速を繰り返してしまいました。
サドルの上で頭脳戦を楽しもう!
とはいえいいところばかりではありません。やはり国産3社の製品とAOGT35Cを比べると、アシスト性能が大ざっぱであることは否めません。AOGT35Cは、主にペダルを踏む力と速度からアシスト力を算出しているので、ペダルの回転数と車速が低くなるような急勾配の上りでは、漫然とペダルを踏んでいるだけでは気持ちよく進みづらいことがあります。そんなときは変速機を駆使してギアを軽めにし、ペダルをこぐ力をうまく調節するとより快適に走れます。
上で加速時にペダルを強く踏み込むと、大きなアシストが発揮されて強力に進むと書きましたが、アシストのオン/オフが明確すぎるせいか、ペダルを踏む力が落ちるとアシストが一気に弱まって失速感が強くなり、走りが少しギクシャクするような印象が否めません。一定の速度とペダルの回転数で街中や郊外を流して走るようなシーンではあまり気にならないのですが、スポーティーなライドではこのオン/オフを出さないように、速度や勾配などの変化に応じて変速機を駆使し、ペダルを踏む力をできるだけ一定に調整するとスムーズに走ることができます。


そんなキャラクターに最初は違和感を覚えますが、地形や速度の違いによって足にかかる負荷をギアチェンジで調整しながら走るのは……なかなかに頭脳戦(笑)。筆者はそれが面白くて、気がつけばAOGT35Cで15kmを超える距離を走ってしまい、全身にうっすらと汗をかくくらいのいい運動になりました。当初は乗る楽しさをそれほど期待していなかったAOGT35Cですが、自分のココロの持ちようを変えればスポーティーな走りが可能です。これなら週末レジャーの相棒にしても悪くはありません。
ちなみに省エネのことをまったく考えずにアップダウンのあるコースを走っていたので、満充電(目盛り5)のバッテリーはあっという間に目盛り1に……。おかげで家路へはペースダウンして戻る羽目になりました。スポーツライドをする際は調子に乗りすぎず、ときどきバッテリー残量を確認しましょう。ハンドル部にコントローラーがないのはこの点で不便かもしれません。ちなみにメーカーによれば、満充電による走行可能距離は35km。最寄り駅までや街中の移動には十分な距離ですが、時には省エネのことを考えながら走ることも必要です。
自転車らしい“電チャリ”かも
アシスト性能や自転車車体の作りに、望むべき部分もありますが、AOGT35Cは電動アシスト自転車の最要件である“楽に走れる”という性能はクリアしていますし、何より6万9,800円という価格を考えれば、納得できる性能を備えています。合格点といえるでしょう。
街で使う“ママチャリ”であれば、漫然と走れる快適性がある程度必要になります。 それに対してAOGT35Cは積極的に自転車と対話をしながら走る必要がありますが、このモデルがスポーティーな電動クロスバイクであることを考えればそれは許せるでしょう。自転車と対話をすることでパワフルなアシストユニットの性能がマキシマムに発揮され、電動アシスト自転車らしいファンライドを可能にしてくれます。

AOGT35Cには自転車本来の操る楽しさ、そのエッセンスをかいま見られます。メーカーがそれを意図して開発したかどうかわかりませんが、もしかしたら手ごろな価格を追求した副産物なのかもしれません。なかなか侮れない1台です。
文:吉本司 写真:高柳健
編集:宮崎正行 モデル:カズー藤田