見くびることなかれKAIHOU スイスイ ブリーズ BM-APX263PS
ヤマハ、パナソニック、ブリヂストンが圧倒的な勢力を誇る電動アシスト自転車。そこに割って入ろうとしているのが新興ブランドのKAIHOUだ。ママチャリ型として投入された「スイスイ ブリーズ BM-APX263PS + 専用充電器」の性能は、国内の大手メーカーに引けをとらないものだった。
国内3強を追う新興勢力
元々の健康志向やエコ志向の高まりに後押しされてか、2010年の年間約34万台に対し、2020年は約73万台、21年は約79万台が出荷(経済産業省生産動態統計より)されるまでに至った電動アシスト自転車。
そんな電動アシスト自転車だが、価格.comの人気売れ筋ランキングを見ると上位は、先駆者のヤマハと大手自転車メーカーのブリヂストン、そしてパナソニックという「3強」がほぼ占めている。しかしながらその状況も今後変わってくるかもしれない。販売台数こそまだまだ少ないとはいえ、この3強を追う存在が出始めてきたのだ。
その1つとなりそうなのがKAIHOUの「スイスイ」シリーズだ。

コストは削っても要所は押さえた性能
そんな値ごろ感のあるAPX263PSだが、数字に表れるスペックを見るかぎり3強の入門機に極端に劣るようには思えない。アシスト形式は両輪駆動式(前輪にモーターを搭載。前輪をモーター、後輪を人の力で動かす)を採用して、アシストモードは「エコ」「平坦(へいたん)」「坂道」の3モード。充電時間は約4時間で、航続距離は最大35q(エコモード時)と、やや控えめながら十分ともいえる数値。
APX263PSと3強の入門機を比較
メーカー | KAIHOU | ヤマハ | パナソニック | ブリヂストン |
---|---|---|---|---|
モデル名 |
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最安価格 | 6万9,800円 | 9万3,000円 | 8万3,500円 | 8万6,490円 |
フレーム材質 | スチール | アルミ | 鉄 | アルミ |
タイヤサイズ | 26インチ | 26インチ(26x1-3/8WO) | 26インチ(26x1-3/8WO) | 26インチ(26x1-3/8WO) |
全長 | 1,895mm | 1,880mm | 1,875mm | 1,865mm |
重量 | 25kg | 26.1kg | 26.2kg | 25.4kg |
バッテリー容量 | 5.8Ah | 8.9Ah | 8Ah | 6.2Ah |
モーター出力 | 250W | 240W | 250W | 240W |
駆動方式(アシストされる車輪) | 両輪駆動(前輪) | 後輪駆動(後輪) | 後輪駆動(後輪) | 後輪駆動(後輪) |
アシストモード | 3モード | 3モード | 3モード | 3モード |
補助走行距離 エコモード |
35km | 57km | 50km | 36km |
補助走行距離 標準モード |
- | 41km | 35km※オートマチック(オート)モード | 25q |
補助走行距離 パワーモード |
- | 35km | 31km | 21km |
充電時間 | 4時間 | 2.5時間 | 4.5時間 | 2時間 |
シフト数 | 3段変速 | 3段変速 | 3段変速 | 3段変速 |
ハンドルロック | - | スタンド連動式ハンドルストッパー | くるぴた | くるピタ(パーキングストッパー) |
(価格は2022年5月9日時点のもの)
自転車部分の作りに目を向けてみると、大きな違いはフレーム素材だ。ある程度のグレードの自転車となると、フレーム素材は車体の軽量化ができてさびにも強いアルミ素材が一般的。それに対してAPX263PSはスチール製となっている。また、それ以外の細かな部品でもコストダウンしている。




しかしながら、内装3段式の変速機、リアブレーキは日本が世界に誇る自転車部品メーカーのシマノ製。さらに軽量化ができて走行感が軽くなるアルミ製リム、高い耐久性を持つ耐摩耗型タイヤなど、APX263PSは自転車の性能を左右する要所にしっかりとしたパーツを装備する。総合的に見れば、APX263PSの仕様は上々のコスパといえるだろう。
「スイスイ」進む自然なアシスト感
両輪駆動式の電動アシスト形式を採用するAPX263PSだが、電動アシストの航続距離を伸ばすための回生機能は搭載されていない。ただし、ブレーキレバーを握ると電動アシスト機能が停止する「断電ブレーキ」という機能が働く。ブレーキを握っていればペダルに力がかかっても不意に走りださない安全性が確保され、またブレーキをかけるとむだな電力が発生しないので節電につながる効果がある。
しかも回生機能を搭載してないことから、モーターを内蔵する前輪ハブ(車輪の中心部)が軽いのだろう。両輪駆動式の割にはハンドル操作の鈍さや癖が少ない印象だ。これは女性や年配の方でもハンドル操作をしやすいし、前カゴに荷物を積んだときにも乗りやすいだろう。
通常、両輪駆動式は電動アシスト自転車において定番である後輪駆動式(車体のセンターにあるフロントギア部にモーターを内蔵)よりも、発進が力強いともいわれる。その半面、発進時にわずかにハンドルをとられるような癖があるのだが、APX263PSはこうした癖を感じにくい。それはユニット自体が軽量なのもそうだが、おそらく電動アシストのパワー自体も抑えられているのだろう。とはいえ平地における発進の鈍さは皆無だし、むしろ滑らかかつ自然に走りだす様は心地いいくらいだ。
アシスト力は最も強い「坂道」モードにした場合でも、3強の自転車と比べると強さは抑えられている印象だ。ただ、それが実用において不足になるかといわれれば、よほどの場面以外はそう感じることはないだろう。上り坂では「坂道」モードにすればアシスト力は満足できる。不足を感じるとするならば、重い荷物を載せた状態で急な上り坂の途中から走りだす際くらいだろう。


そしてAPX263PSのチャームポイントは走りが滑らかなこと。アシストパワーのオン・オフの落差が少なく、「今、電動アシスト入っています!」という人工的な感覚が少ないので特に平地ではスムーズに走り続けられるのだ。力強く「グイグイ」というよりも、まさに「スイスイ」と自然な感覚で気持ちよく進んで、車名と走りが一致しているような印象を受ける。
その半面、ヤマハPASの一部機種が搭載する「スマートパワーモード」のように、「このモードとアシスト任せである程度どこでも走れる」というたやすさはない。急な上り坂では「坂道」モードにしたり、3段変速も地形に合わせて段数を変えたりするほうが疲れず走ることができるし、もちろんバッテリーの消耗も抑えることができる。
ただし、地形に応じてアシストモードを変えるのは、電動アシスト自転車を乗りこなすうえでは基本的に必要なことだ。また、前述のヤマハPASにしても「スマートパワーモード」を備えるのは中・上位機種のみなので、APX263PSのアシスト性能は同クラスで比較しても決して劣らない。
1つ気になる点があるとすれば耐久性だろう。特に電動アシストユニットは未知数だ。KAIHOUは1年間の品質保証をつけ、さらにサポートセンターを設けてユーザーケアに対応しているが、万が一の場合に近所の自転車販売店で対応してもらえるかを考えると、大手との間には差があり、そこに少々の不安がある。
いい意味で「フツー」
そもそも3強と呼ばれるメーカーの電動アシスト自転車は歴史もあり完成度が高い。そのため、それと比べると新興メーカーの製品に対する評価は、辛口になりやすい。しかしながらAPX263PSは実用を満足させる性能を備えている。3強の近いグレードのモデルと比べても性能と仕様に極端な不足はない。さらに実勢価格で比べればコスパのよさはAPX263PSに軍配が上がる。
初めての電動アシスト自転車を求める人で、出費を抑えたい人、あるいは近距離を手軽に乗りたい人なら納得できる1台となるはずだ。航続距離も35qを確保しているのでお母さんの近所のお買い物用だけではなく、高校生や大学生の通学、健康管理や節約のために自転車通勤を考えているお父さんまで、対象ユーザーは幅広い。

最後に、筆者はAPX263PSの存在自体は認知していたが、製品には実際触れたことがなかった。それゆえに正直なところ性能は未知数だったが、実際に乗ると、現在の電動アシスト自転車の標準的な性能をしっかりと満たしており、いい意味で「フツー」な1台だ。
価格が安いことを考えれば、数年後、街中でスイスイと走るKAIHOUの電動アシスト自転車をもっと見るだろう。
文:吉本司 写真:佐藤竜太