電力自由化
メリットだけではなかった。電力自由化とアメリカの大規模停電
日本よりいち早く、1990年代に電力自由化が進展したアメリカ。1990年代後半から2000年にかけて多くの州レベルで電力自由化が導入されることになりましたが、いいこと尽くめではありませんでした。
1998年に電力自由化を導入していたカリフォルニア州で、2000年夏から翌年にかけて停電が頻発する事態が発生します。理由は、電力会社が十分な電力を確保できず必要な電力を消費者に供給できなくなったこと。そのきっかけとなったのは、電力需要の拡大と天然ガス価格の上昇、猛暑の影響による電力卸売価格の急上昇などがあげられます。
電力会社は高価な電力でも発電事業者から購入せざるをえませんが、様々な規制があり上昇分を消費者に価格転嫁することができませんでした。そのため電力会社の経営は急速に悪化する一方、発電事業者は利益の確保のため供給をおさえると同時に、経営悪化で代金が回収できなくなる懸念のある電力会社へ電力を売り渋るようになり、さらに状況は悪化します。
その結果、電力会社は大規模な輪番停電(一定地域ごとに電力供給を順次停止・再開させること)を行う事態に陥ったというのが真相です。
電力自由化の経緯と目的
もともとアメリカでは安い電気料金が経済の活性化に必要との判断もあり、早くから電力自由化が進められてきました。まずは送電線を所有しない発電事業者の市場参入が認められ、さらには送電線の開放(自由化)も義務付けられ、消費者はどの地域のどの電力会社からでも電気を購入できる電力自由化を導入。完全な競争市場となり、アメリカの電力事業は大きく変化しました。
先例から日本が学ぶべき教訓
カリフォルニア州で起こった電力危機は、渇水による水力発電能力の低下や天然ガスの高騰による卸売電力価格の上昇という原因もありますが、需要と供給によって値段が変わるリアルタイムな市場原理に過度に依存したことや、小売り価格と卸売り価格との逆ザヤ発生時への対応方法の準備不足など、制度設計上のミスも少なからず指摘されています。
また、システム障害が原因とされる2003年に起きた北米大停電は、電力自由化による電力供給の質が低下したからだという見解も見受けられます。市場原理を導入し、電力自由化によって競争が激化すると、どの電力会社も余分な発電設備を持たなくなることが予想されます。
発電所でトラブルが起こったり、自然災害が発生して供給能力が大きく損なわれた場合、あるいは猛暑や景気の向上で電力需要が急増しても、過度な競争社会では最後のバックアップを引き受ける存在がいなくなります。さらに、需要がひっ迫した状況を利用して電力を出し惜しみ、もっと電気料金を上昇させる会社があってもおかしくありません。
アメリカの電力事業における管轄や規制は、州と連邦が絡み合う非常に複雑な構造のため、日本とは事情が異なりますが、カリフォルニア電力危機以降は、電力自由化を導入する州は少なくなっており、電力自由化の動きは停滞しているといわざるをえません。こうした海外の状況を知ったうえで、日本がいかに電力自由化や発送電分離を実現するのかは世界から注目されています。