電力自由化でガス会社が電気を販売するってどういうこと？

電力自由化

更新日：2024年04月17日

ガス会社が電気を販売するってどういうこと？

ライバル関係にあるガス会社が電力事業に参入するわけは？

2016年4月から始まった電力小売りの全面自由化。原則誰もが発電事業者として発電会社になることができ、小売電気事業者として電気を販売できるようになりました。そのため、様々な業種から数多くの会社が発電事業や小売事業に新規参入しています。中でも、電力会社とはライバル関係にある東京ガスや大阪ガスという大手ガス会社は、電力事業への参入を表明して以来、ずっとその動向が注目されていました。ガス会社の電力事業参入は私たち消費者にとって何かメリットはあるのでしょうか？　電力全面自由化で各地のガス会社が電力事業に参入するわけを考えてみましょう。

実は以前から電力供給で高い実績を持つガス会社

ガス会社が電力事業に参入する最大の理由は、企業としての新たな収益源の確保です。電力市場の規模は全体で約20兆円、電力全面自由化によって開放された一般家庭向けに限っても、約8兆円の電力市場と見込まれていました。数多くの会社が新規参入してくるのは、この膨大な市場に狙いを定めているからです。ガス会社は、突然この市場への参入を表明してきたわけではありません。実は、2000年に設立された株式会社エネットは、NTTファシリティーズ（40％）、東京ガス（30％）、大阪ガス（30％）の3社が共同出資した新電力（東京電力や関西電力など既存の大手電力会社である一般電気事業者とは異なり、契約電力が50kW以上の大口の需要家に対して電力供給を行う特定規模電気事業者のこと）最大手の会社です。全国100ヶ所以上の発電所の電源を活用し、島嶼部を除く全国の需要家に電力を供給しています。2016年4月の電力全面自由化後は低圧分野に参入し、一般家庭にも電力供給を開始。以降も事業の拡大を進めており、2020年6月には顧客件数が99,000件を突破しています。

ガス会社が目指すのはガスと電気の両方を販売するデュアル・フュエル

複数の商品やサービスを組み合わせて販売することをセット販売やバンドルサービスと言います。電力全面自由化後は、市場に参入した会社の自社製品やサービスと、電気を組み合わせたセット販売が各社から登場します。ガスはもちろん、通信サービス、石油（ガソリンや灯油）、さらにはユニークな商品やサービスとのセット販売が予定されています。中でもガスと電気のセット販売は、デュアル・フュエルと言って多くの国で一般的な販売方法として定着しています。ガス会社もすでに多くの一般家庭と個別にガスの契約をしており、ガス・電気両方の請求業務を一元化することでコストの削減が可能になります。消費者にとっては、電気とガスをまとめて契約できるだけでなく、電気料金の値下げも期待できるわけです。

たとえば、東京ガスの場合、電気とガスの使用場所・契約者が同じである場合に、各料金をまとめて支払うことでセット割引が受けられるプランを提供しています。また、電気とセットで太陽光余剰電力の買い取り単価がスタンダードよりも高くなるメニューも提供しています（2024年2月現在）。

電力に続いてガス販売も自由化。消費者にはさらなる値下げの期待も

ガス会社が電力事業に力を入れるもうひとつの理由に、都市ガス販売が電力に続いて自由化されたということがあります。都市ガス（プロパンガスと異なりガス管を通じて各家庭に供給されるガス）も、一般家庭や商店などのいわゆる小口契約については地域独占が認められており、消費者は自由にガス会社を選ぶことができませんでした。しかし、2016年4月の電力小売りの全面自由化に続いて、都市ガスについても2017年4月にガス小売りの全面自由化がスタートしています。市場規模は約2.2兆円と言われ、電力市場よりは小さくなりますが、自由化に伴って関東や近畿などの都市部を中心に新規事業者の参入が進み、家庭用ガス販売量のシェアは拡大傾向にあります。

さらに、電力事業の“発送電分離”に相当する“導管分離”も2022年4月に実施されています。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの都市ガス大手3社が対象で、導管事業部門について法的分離が義務付けられました。これにより新規参入事業者もガス導管の設置が可能になるため、たとえば火力発電用に大量のLNG基地を保有する電力会社が参入するなど市場の競争が起これば、ガス会社と電力会社の両者は競争に勝ち抜くために新しいプランやサービスを提供するといったメリットが期待できます。ただし、ガス導管そのものが通っていない地域もあり、新規参入を促すには全国的な導管整備が課題の一つとなっています。