「足るを知る」がカギ プロのサウンド・プロデューサーが選ぶ音楽機材
Pro's Choice Item
- プロが選んだ製品
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道具選びのこだわりをプロに聞く「Pro’s Choice」。今回はサウンドプロデューサーにしてシンガーソングライターのESME MORI (エズミ・モリ)さんが、音楽の制作環境を公開。取材を通して、ESME流の「無駄のなさ」へのこだわりが強く感じられた。
「本当に必要なもの」を見極める
ESMEさんは、アーティストのプロデュースや楽曲提供をはじめ、自身でもシンガーソングライターとして活動している。これまでに手掛けたアーティストは私立恵比寿中学やSexy Zoneなどのアイドルから、今をときめくAwesome City Club、さらに話題のヒプノシスマイクまで実に幅広い。さらには、自身の裏声にフォーカスした1stアルバム「隔たりの青」をリリースしたばかりだ。
今回はそんな音楽制作のプロフェッショナルでもあるESMEさんの仕事場を見せていただこう!という、音楽好きには非常にうれしい企画。
しかし、しかしである。音楽機材というアリ地獄のような「沼」にハマってしまった人間の多くは、機材選びが下手である。同じような機材をつい買ってしまったり、新しいものが出るたびに目移りしたり……。挙げ句、いくつもの機材たちが日本の狭小住宅を占拠するのである。

しかし、ESMEさんの仕事場は、それとはまったく違う。 もはや、「禅」の精神すら感じさせる。すっきりとしており、邪念(無駄な機材)が一切ないのだ。まず「自分が本当に必要なものが何なのか」を見極める、これがESME流の機材選びといったところだろうか。
必要なものは譲らない
たとえば、現在ESMEさんが使用されているオーディオインターフェイスの「Apollo x4」。その高品位で温かみのあるサウンド以外に、豊富なプラグインやボディ上面のエンコーダーによる操作の手軽さが売りでもある。
しかしESMEさんはそれらのプラグインや本体のエンコーダーはほぼ使わないと言い切る。ESMEさんの場合、必要なのは音の解像度の高さ、そして優れたモニタリングが可能なデュアルヘッドホン、使いやすく、パソコン上ですべて制御できる専用のアプリ。実にシンプルだ。しかし「シンプル=こだわりがない」ではない。むしろ、自分に必要なものは絶対に譲れない。
幼少期からピアノを操るESMEさんは、リアルなピアノにこだわり、88鍵のMIDIキーボード・コントローラー、Studiologic社の「SL88 STUDIO」を選んだ。「自分の理想に合うものは、これしかなかった」という。大型の本体もすっぽりと配置・収納できるDTM用のデスクを導入したのは、コンパクトな仕事場ながら、作業効率を極力高めるためだ。

長時間のデスク作業から離れて、リフレッシュした気分で歌を作りたいときはヤマハの「reface CP」が欠かせない。電池駆動でありながらリバーブなどの高品位なエフェクトやスピーカーのおかげで気持ちよく曲のラフスケッチに没頭できる。
ミックス時のモニター環境については「ゆくゆくはウーハーを導入して、スピーカーでも低音をモニターできるように計画中」としながらも、低音がくっきりと聞こえるDENON製ヘッドホン「AH-D5200」を愛用中。これで十分に事足りているので、今すぐに無理をして高価なスピーカーをそろえるよりずっとリーズナブルというわけだ。
プリプロやライブ時に活躍するというゼンハイザー製のマイク「e 835」は、何と1万円を切る価格ながら、その手軽さとヌケのよさから頻繁に使うという。ド定番のものや高価なほうがいいのでは、などと思っている方も一度試してみてほしい。

ほかにも、4年弱使用しているというのがAppleの「MacBook Pro」。17年製とやや古めのモデルだが、作曲に使用しているソフトのOS対応が理由で、OSアップデートすらしてない。聞けば聞くほど「必要なもの」へのこだわりが明確になる。
必要な機材、あるいは機能にこだわり、付属機能でもいらないものは使わない。そうしたシンプルかつ効率的な使いこなしが、ESMEさんの幅広い活動を支えているのだろう。
私たちはえてして「多機能」「高価」「最新」といった売り文句の「三種の神器」に踊らされがちだ。しかし、シンプルに、確かなもの、必要なものを選べば、おのずと時短にもつながり、邪念もなく(そして機材が増え続けることなく)、自身の求めるものが見えてくるのではなかろうか。
みなさんも今回のESMEさんを参考に、スマートに機材選びを楽しんでほしい。
Pro's Choice Item
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オーディオインターフェイスUniversal Audio:Apollo x4
POINT
- 芯のある音像を再生できる
- 専用のソフトで簡単にツマミをコントロールできる
- ヘッドホン出力が2つあるのでレコーディングに便利
仕事柄、解像度の高いサウンド再生が必要。デュアルヘッドホンなので、コラボレーション作業時でも一緒にクリアなサウンドで聴ける。また、専用のモニターソフトを使えば、パソコンからすべての音をコントロールでき、簡単に正確な調整が可能。携帯用にも同メーカーの製品を使っているため、両機で互換性があるのも◎。
タイプ:Thunderbolt 3オーディオインターフェイス
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MIDIキーボード・コントローラーStudiologic:SL88 STUDIO
POINT
- ピアノ鍵盤で繊細なタッチが表現できる
- 複雑なツマミがないシンプルな操作性
88鍵でピアニシモからフォルテシモまで、本物のピアノと同様の使用感が得られる。MIDIコントローラーとしてだけでなく、ピアノ1本による演奏が求められるときにも活躍。作業デスクの引き出しに収納し、ひきたいときにさっと演奏できるようにしている。収納方法も含め参考にしたいところ。
タイプ:MIDIキーボード・コントローラー
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ヘッドホンDENON:AH-D5200
POINT
- 低音域の音像をチェックできる
- 各楽器のバランスもチェックしやすい
エンジニアの知人が、ヘッドホン試聴会を実施した際、全会一致で1番いいと評価された逸品。ミックス時はスピーカーでは音像を捉えづらい低音を確認するために必ず使用する。このヘッドホンを基準にモディファイされたヘッドホンアンプとの組み合わせも最高。また、長時間作業でも耳が疲れない快適設計なのもうれしい。
タイプ:オーバーヘッド 装着方式:両耳 構造:密閉型(クローズド) 駆動方式:ダイナミック型 再生周波数帯域:5Hz〜40kHz ハイレゾ:○
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シンセサイザーヤマハ:reface CP
POINT
- 電池駆動なのでどこでも演奏可能
- 内蔵スピーカーの音がいい
- リバーブやディレイなどのエフェクトも優秀
電池駆動で持ち運びができるので、作業スペースを離れて頭をリセットしてアイデアをスケッチしたいときに使用している。当初はライブ用にと購入したが、今では歌作りのメモには欠かせない相棒に。ワウ、トレモロ、リバーブ、ディレイなどの内蔵エフェクターや搭載スピーカーも優秀で、気持ちよく制作に没頭できる。
鍵盤数:37鍵
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マイクゼンハイザー:e 835
POINT
- 抜けがよく録音できるので必要以上の加工がいらない
- ライブ用にも使える
ライブ用マイクを探していて知人に紹介された1本。この価格で? と驚くほど音の抜けがいい。ラフに録音したいプリプロ用としても、エフェクトや事前の音調整を加えることなくナチュラルなサウンドで録音できる。男女問わずどんな声質にも使いやすいうえ、現場に「マイマイク」を持参するだけでテンションが上がるのでおすすめ。
種類:ダイナミック ケーブル:有線 全長:180mm 重量:330g
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Mac ノート(MacBook)Apple:MacBook Pro Retinaディスプレイ 2800/15.4 MPTU2J/A
POINT
- どんな現場にも持って行ける
- 「Logic Pro」が使える
持ち運べるパソコンとして2017年に購入。Logic ProユーザーのためMac。作業効率を重視して、クラムシェルモードで外部モニターに出力する。制作はパソコン上のプラグインやソフトウェアで完結。ソフトウェアとOSの互換性による不具合を避け、むやみに買い替えない主義だ。
液晶サイズ:15.4インチ CPU:第7世代 Core i7/2.8GHz/4コア ストレージ容量:SSD:256GB メモリ容量:16GB
Apple:MacBook Pro Retinaディスプレイ 2800/15.4 MPTU2J/Aの詳細を見る
※紹介製品の現行モデル
Apple:MacBook Pro Retinaディスプレイ 13.3 MYD82J/Aの詳細を見る
文:サイトウミホ 写真:文田信基(fort)