本当の「音楽」がここにあるqdc Dmagic3D
昨今のイヤホンは「ワイヤレス」がトレンドだろう。しかし、音質では「ワイヤード(有線)」が優位だ。では、有線イヤホンでも20万円に迫ろうというqdc「Dmagic3D QDC-8503」の音質とは? 結論からいうと、その答えは絶句、からの涙だった。
音質と真剣に向き合う「IEM」
Dmagic3D QDC-8503(以下Dmagic3D)について語る前に、まず「IEM(イン・イヤー・モニター)」というジャンルについて説明をば。IEMとは、ミュージシャンがパフォーマンス中に音響をチェック(モニタリング)することを主眼に開発されたイヤホンで、高級オーディオ製品として一般向けにも販売されています。

そのうち「カスタムIEM」はユーザーごとの耳型に合わせて形状をカスタマイズするIEM。オーダーメイドのスーツみたいなもんですね。一方、より一般向きで万人にマッチする形状を用いるものは「ユニバーサルIEM」と呼ばれます。本機は後者に該当します。
その違いは「写真」と「旅行」に匹敵する
「この金額でこの音、むしろお得なのでは?」。
有線イヤホンで19万円前後(2020年11月時点)って、僕もいざ使ってみるまでは高級感にビクビクしてましたが、初試聴から10分くらいでこう思いました。
とっにかく階調の豊かさが圧倒的で、耳の中に本物の楽器やバンドが生成されたかのよう。もちろんボーカルの生っぽさも格段にアップし、本人が目の前で歌っているかのような臨場感。専門的な部分でいうと、ミックスのバランスやエンジニアの癖まで見えてくるほど。

この音の違いを写真に例えるなら、写真の場合は解像度という要素があり、これが高ければより高精細に見えますよね。でも、どれだけ解像度を上げていっても、「写真に写っているその場所に行った感覚」にはなれなくないですか? それがDmagic3Dは、行けてしまうのです、音楽が鳴っているその場に。滝の写真ではなく大瀑布(ばくふ)を目前にした臨場感を、星空の写真ではなく満天の星を見上げたときのもの寂しさ、静けさをよみがえらせます!
あまりに精密に設計されたイヤホンは、人を音楽の世界の中に呼び込んでしまうのです。
だって僕は泣きましたからね、実際に。10年以上前から聴き続けている坂本真綾の『ヘミソフィア』を本機で再生したら、何百回と聴いてきたはずなのに、まったく違う聴こえ方がして驚きました。こんな鳴り方してたの? こんな音あったの? こんな息遣いで歌ってたの? と。まさに心は曲中の「土煙の舞い上がるサバンナ」にありました。
音源データをデータ以上の体験に変えてしまう、それが高級イヤホン、それがDmagic3Dの力。

ちなみに音質への貢献大なのが、ユニバーサルIEMならではの神がかりなフィット性。イヤホンを確実にスイートスポットへ導き、かつズレないよう安定させることで、装着するたびに変わってしまう聞こえ方のブレを防ぎます。イヤホンは正しくフィットするだけでめちゃくちゃ聞こえがよくなりますからね。
オーディオ環境構築と考えたら安い?
たとえば最高級のオーディオ環境のために本格的なオーディオルームを自宅に敷設する場合、複数スピーカーの設置やアンプの導入だけでなく、ケーブルや壁の材質、湿度設定など、あらゆる要素を考える必要があります。相場も100万円以上はかかるでしょう。
そう思ったからこそ、僕は19万円前後でこの音質が味わえてしまう本機を、お得だと感じたのです。再生機なども必要とはいえ、上記の環境構築と比べると、圧倒的な手軽さでこの高音質を得られてしまうのですから。

インプレッションを終えた今でもその記憶が残ってしまってるので、個人的な購入も日に日に現実的になってきました。マジで恐ろしい。
イヤホンで人生が変わるかも
とにかく問題なのは、価格も含めてこのレベルのイヤホンを試してみようという覚悟ではないでしょうか。「ハイレゾ」や「デジタルオーディオプレイヤー(DAP)」などに関する、専門知識も必要になってきますし。
しかし、しかし、覚悟を決めた者だけが得られる褒美があるのも事実。多くの人にとって、いまだかつて体験したことのない極上の音楽体験が、今日も誰かの覚悟を待っています。そのひとりは僕かもしれないし、これを読んでいるアナタかもしれません。
文:ヤマダユウス型 写真:文田信基(fort)