音源以上の意味をSONY LSPX-S3
ワイヤレスに音楽が楽しめるBluetoothスピーカーは、今では一般的なオーディオガジェットといえる。しかし、求めるのは音楽だけで十分だろうか? SONY「LSPX-S3」を味わえば、どうして音楽を聴くのか、心地よさとは何かを再考するきっかけになるはずだ。
音楽を聴く空間そのものをデザイン
一見すると照明器具のようにも見えますが、SONY「LSPX-S3」は有機ガラス管を振動させて音を伝える、グラスサウンドスピーカーです。いわゆるスピーカーらしいルックスではないのがユニーク。この時点でモノとしての魅力にあふれていますね。
質感も高級感があり、デスクの端やリビングのテーブルにポンと置くだけで空間を引き締めてくれそう。有機ガラス管の中にはLEDライトが入っており、キャンドルのように周囲を照らします。
LEDライトは音楽に連動させたり、キャンドルのように不規則に揺らめいたり、本体のタッチセンサーから柔軟な操作が可能。このあたりの使い心地は照明器具に近いです。

ではスピーカーが照明器具として機能する意味はあるのか。
これに対する僕なりの答えですが、LSPX-S3は音楽を鳴らすだけでなく、音+光+美しい本体の存在感が「音楽を聴く場」そのものをデザインしているなと感じました。より音楽に浸れる場所を作り出し、聴く人の気持ちをリラックスさせることで、一般的なスピーカーからは摂取できない癒やし成分を浴びることができる、そう思います。
クリアな高域とテーブルを揺らす低域
スピーカーに音響的な最適解を求めた場合、いわゆるスピーカーらしい形状になるのは自明。歴史がそれを語っています。
じゃあ、LSPX-S3は音質的にデチューンされているのかといったら、いやいや全然。本当にいい音なんです。 LEDライトを保護しつつ、光を拡散している有機ガラス管。これがツイーターの役割を果たしていて、高域を遠くまで届けることができます。しかも一般的なスピーカーと違って指向性がなく全方位的なので、スイートスポットがとても広い。つまり、配置場所を選ばない利点があるわけですね。
Nujabesの『Another Reflection』を聴くと、ピアノのイントロがとにかく美しいし、坂本真綾の『ユッカ』は、ボーカルの透明感を強く感じられました。
有機ガラス管下の本体には46mmのウーハーが配置され、底面にはズンズンとキックを伝えるパッシブラジエーターを搭載。MY FIRST STORYやFear, and Loathing in Las Vegasのようなラウド系を再生したときは、テーブルに振動を感じるほど低音が鳴っていました。

ただ、LEDライトのやさしい光がそうさせるのか、個人的には落ち着いた曲が聴きたい気持ち。
ちなみにウーハーも天井を向いているため、ツイーター同様に全方位的に鳴ります。さらにツイーターとドライバーが同じ縦軸に配置されているため、スピーカーに対してどんな場所でも高域と中域がバランスよく聞こえました。
ただ、部屋の反響のせいで左右の音量差を感じてしまうことがあったため、欲をいえば、専用アプリと2台のLSPX-S3でステレオ化して聴きたいですね。すごいステレオ味があると思いますよ。
数値で測れない喜び
Bluetoothスピーカーを自宅やお店で使うケース、とても増えてますよね。でも、スピーカーの見た目がインテリアコーディネート的に部屋にマッチしない……。せっかく部屋に置くスピーカーにはBGM用途だけでなく部屋のオシャレさにも貢献してほしい……なんてこともあるのでは?
通常のスピーカーは、再生ボタンやメッシュカバーなど「僕スピーカーです!」な要素の主張が避けられません。インテリア性を強く意識したスピーカーも存在しますが、それってすなわち、スピーカーを置きたいけどスピーカー的な要素は排したい、というニーズの現れではないでしょうか。
スピーカー的な要素を極限まで排したLSPX-S3は、こうしたニーズを満たしてくれます。何なら見た目は照明器具ですから、スピーカーよりもインテリアに分があるといえます。

ちなみにアウトドアメーカーのコールマンから、「ルミエールランタン」というガスランタンが発売されておりロングセラーとなっています。
LSPX-S3はそれに似ているんですよ。外観だけでなく、揺らめく光が人を魅了するところまでも。明滅する光に照らされて不規則に濃淡を変える影は、部屋に有機的な動きをもたらし、何ともいえない情緒を感じさせます。荒井由実の『翳りゆく部屋』が聞きたくなりますねぇ。
聴覚+視覚が心身をチルアウトさせる
もし真剣に音楽と向き合うなら、スピーカーは音質ドリブンで選びたい。僕も願わくばそうしたいですけど、現実問題としてそれは難しい(物理的、価格的にも)。
そこで「スピーカーという装置がもたらす満足指数」のような総合評価で考えるとどうでしょう。LSPX-S3はトータルでの満足指数が、とても高いスピーカーなのです。音質は十分満足できるものですし、さらに本体デザインやLEDライトなどが空間に好ましい影響を与えてくれます。
お気に入りの椅子に座って、あるいは好きなコーヒーを飲みながらまったり聴く音楽は、代えがたいチルアウトの時間です。そこにデザインや光といった視覚的要素が加われば、もっとリラックスできちゃう。視覚的要素、あるいは所有的満足感によって、LSPX-S3はリスニングの空間を特別なものにしてくれるんです。
場、あるいは空間が与える力は、とても大きいもの。大掛かりなリスニングルームが作れなくとも、光の揺らめきは僕たちの心を大いに癒やしてくれます。
こんな癒やしを感じるスピーカー、そうそうあるものではないですよ。
文:ヤマダユウス型 写真:文田信基(fort)