持ち歩く「あの重低音」SONY SRS-XB23
「イージーリスニング」というジャンルが存在するように、姿形は変われど生活には「ラフな音」の存在は欠かせない。ただ、時には全身で重低音を浴びたくなる。そんな気分にフィットするBluetoothスピーカー、SONY「SRS-XB23」の魅力に迫る。
自粛生活には「体で浴びる音」が不足
自粛生活の最中にも、私たちはTV・パソコン・スマートフォン・タブレットとあらゆる媒体から音を摂取して暮らしています。
ただ、それらはあくまで「ケの日」のサウンド。柳田國男氏が提唱したように、生活のサイクルには元来よりハレの日とケの日、つまり日常と非日常が存在します。僕の場合、それは映画館やライブハウス、あるいはクラブや野外フェスなどに足を運ぶことでした。(それが高じた結果、気付けば音楽レビューやDJ、バンドといった活動が生活の核となり、「ハレ」と「ケ」がグラデーションのように混在する謎の人生に!)
しかしながら、今の状況の中で生活に「ハレ」を作ることは難しいのが現実です。その代わり、サブスクリプションサービスで動画や音楽を楽しむ時間が増えました。
とはいえ、やっぱり現場の熱気と迫力のあるサウンドシステムには、スマホのスピーカーやイヤホンでは到達できません。なぜなら、そこには「体で浴びる」重低音が欠けているからです。全力で設備投資をすれば近づけるかもしれませんが、住環境や財布の余裕など、いろんな壁が行く手を阻みます。

そんなとき、ふとしたきっかけで手に取ったスピーカーが「SRS-XB23(以下XB23)」。コンパクトないでたちからは想像できないインパクト大の音像で、日常のさまざまなシーンに「音圧」をひと匙(さじ)加える名機でした。
「現場の重低音」を思い出す
「ライブハウスに行きたい! クラブで踊りたい!」 在宅ワークが続くと、頭の中にこのような衝動が湧き上がります。それも強烈に。BGMとしての音楽ももちろんいいモノですが、全身が震える「あの体験」はやっぱり必要でした。
「パソコンやスマホのスピーカーは力不足だし、かといってイヤホンを1日中付けて過ごすのは窮屈だな……。」
というモヤモヤを解決するのが、SONYが誇る「EXTRA BASS」シリーズのBluetoothスピーカー、XB23です。「ライブ会場にいるような重低音」というブランドコンセプトもさることながら、何より魅力的なのがTPOを気にせず迫力のサウンドを存分に楽しめる手軽さでした。

幅76 mm×高さ218 mmという取り回しやすい小ささながら、SONY独自の「X-Balanced Speaker Unit」を搭載してパワフルな音圧を実現。Bluetoothスピーカーとは思えない仕上がりです。
特に驚いたのが、ボリュームを絞っても音の分離をしっかり感じられることでした。スピッツの甘酸っぱいメロディラインからAphex Twinの凶悪なブレイクビーツまで、オールジャンルに対応可能。優等生だけど遊び心もしっかり効いた、主人公キャラのようなイメージの音像です。現場で感じるアンプの歪みも、ウーハーユニットの振動も見事に再現。本当にこれ、モバイルスピーカーなの……?
接続の安定性やボディの丈夫さも抜群で、自宅からアウトドアまで自由自在に利用できるのもうれしいポイント。コロナの状況下で急速に普及していった配信ライブなどの視聴にも最適で、とにかく今まで感じていた物足りなさをちょうどよく埋めてくれる存在です。
足りなかったのは、やはり重低音に打ち震える感覚だったんだな……。と再確認。これこれ、これなんだよ、僕がクラブとライブハウスに通い続けてた理由って! 繊細なアンビエントも、爆音のハードコアもどっちも好き。いい音が大好き! 四六時中音楽を聴き続けている筆者が、思わずエンジン全開になってしまうクオリティであることはバッチリ保証します。
魅力は重低音だけじゃない!
「迫力の重低音が魅力、っていうけど本当なの? 持ち上げ過ぎじゃない?」 と疑心暗鬼の声が聞こえそうなほど絶賛してしまいましたが、実際XB23は1万円台のBluetoothスピーカーの中でもトップクラスの優秀さと断言できるクオリティです。
筆者は仕事柄、国内外の新譜を大量にチェックしたり、知られざる名盤を追い求めて大量の中古CDやダウンロード音源を購入する毎日を送っています。ヒップホップやHyperpopなどのトレンドはもちろん、エレクトロニカや実験音楽、アニソンに至るまでをジャンルレスに聴きあさるため、音響機器にはある程度のバランス感が欠かせない条件です。
XB23は重低音が魅力のモデルではあるものの、クリアな音像を実現するデジタルアンプ「S-Master」や、圧縮音源を原音再現する「DSEE」システムといったSONYの技術がふんだんに使われています。そのかいあってか、多彩なジャンルをきっちりフォローしてくれる納得のサウンドに。

XB23の魅力を感じられるアンセムはいくつも存在しますが、特に違いがわかる作品を何曲かご紹介します。
電気グルーヴ『虹』(テクノポップ)
キャラクター性でも有名なユニットですが、ジャパニーズ・テクノの大名曲をいくつも発表している正に「リビング・レジェンド」な存在でもあります。特にアルバム『DRAGON』収録曲のこちらは、海外で評価される足掛かりにもなった10分超の大作。 同曲のみずみずしいアシッド・ベースや深々としたパーカッション、太いキックの音まで、全音域をXB23が鳴らしてくれました。ライブで聴いたあのサウンドがよみがえります。
Lil Peep『Gym Class』(ヒップホップ)
近年世界的ムーブメントとなった「エモ・ラップ」というジャンルが存在しますが、その中心的存在だったLil Peepのシングル作をXB23でリピート再生。深いリバーブが効いたボイスはもちろん、トラップ(※ヒップホップの1ジャンル)以降のスタンダードとなった極太なビートも確かに聴かせてくれます。ちょっと泣きそうに……。
The Velvet Underground『Sister Ray』(ロック)
バナナのアートワークでも有名なThe Velvet Undergroundが1968年に発表したアルバムから、17分の大作をXB23で再生してみました。結果、長さをまったく感じさせない緊張感が十二分に伝わってくる圧倒的なサウンドに! 長尺の曲にピッタリのスピーカーだな、と確信しました。
福居良『Scenery』(ジャズ)
知る人ぞ知るジャズピアノの名手として活躍した福居良の大名曲も、XB23が最高の音像にアップデート。同曲はピアノ・ベース・ドラムのトリオ編成というシンプルな構成ですが、EXTRA BASSがリズムの鳴りを底上げしてくれることで、結果的に情感に訴えかけるピアノの魅力が再発見できるようなバランス感に大変身! あまりの迫力にライブ盤かと思いました。
気楽に「ツーランク上」の音楽体験を
XB23を生活に取り入れて感じたのは、音楽に集中したいときでも、何となく聴き流したいときでも等しくハイクオリティな音楽体験を与えてくれることの便利さでした。
スマホとペアリングを済ませたら、あとは再生ボタンを押すだけ。リビングで取りあえずシャッフル再生をしたり、ちょっとほかの部屋に移動したりと自由自在。もちろんベランダや庭先で過ごす一時や、大自然の中で楽しむアウトドアレジャーの際にも大活躍すること間違いなしです。防水性も十分で、お風呂や水まわりでも問題なく利用可能なのもうれしいポイントですね。

この価格帯でワンランクどころか「ツーランク上」の極上サウンドが手に入るのは本当に助かります。イージーでもリアリティあふれる音を求める方にとって、最良の選択肢のひとつになりえる逸品でした。
文:松島広人 写真:佐藤竜太