概念を変える1台Apple MacBook Air Retinaディスプレイ 13.3
古くからライターやエディター、またそれ以外のユーザーにも人気の高かったAppleの「MacBook Air」。新たに登場した「M1チップ」搭載の「MacBook Air Retinaディスプレイ 13.3」は、ハイコスパといえるパワー感あふれる1台となった。
M1チップ搭載による性能向上
2008年に登場し、2020年モデルで5代目となったMacBook Air Retinaディスプレイ 13.3(以下、MacBook Air)。外観はずっとキープコンセプトで、一見するとどの世代のモデルかわからないのですが、最新のMacBook Airこそが最良のMacBook Air。そして現行モデルはその「最良」の基準値をグッと高めたモデルになりました。宇宙の変わり目のモデルとなってしまいました。
その大きなターニングポイントとなったのは、M1チップの存在です。今までのPCはCPU、GPUなどをそれぞれ別パーツとして搭載していました。しかし、M1チップはCPU、GPU、機械学習チップ、画像エンジンなどを「SoC(システムオンチップ)」としてワンチップにまとめ、さらにメモリーなどのパーツも「SiP(システムインパッケージ)」として1つのパッケージにまとめています。スマートフォンの開発とともに進化してきた、最新のプロセッサーのスタイルです。

メリットはなんといっても、全面的な性能アップ。負荷の高い作業も低消費電力重視の動作も自由自在ですし、PC内部のデータ転送速度が大幅に引き上げられたことから、体感速度も大幅にアップ。メモリーが8GBもしくは16GBモデルしか選べないのですが、超大容量メモリーが必要な作業ってそれほどないので、ほとんどの人が「これはいいPCだ」と感じ取れるシステムなのです。
……という触れ込みから、従来からのMacBookユーザーだけではなくWindowsユーザーも気になっているというMacBook Air。実際に使ってみたところ……2021年にPCを買い替えたい人にとって、選択肢に入れるべき1台になっていると感じましたね。
入力もリモートワークも気持ちいい
筆者はライターという仕事柄、1日の大半はキーボードに触れています。そのためPCのキーボードの作り込みには人一倍気になるほうだと思っているのですが。
MacBook Airのキーボード。よくなりました。目をつぶって触れたら、これがMacBookシリーズのキーボードとは思えないくらいに。
薄型PCだからキーストロークはさほど深くないのですが、押し始めから底につくまでやわらかくしっとりしている。でも抵抗にコシがあるから、底までキーを押さずに文字やデータ、コードの入力ができます。慣れてくるとキーを押しているのか、自分の思考とMacBook Airがシームレスにリンクしているのかわからなくなるくらいに、快適で気持ちいいんですよ。なんだ、Appleもステキなキーボードを作れるじゃないですか!

そしてブラウザがまた気持ちいい。今回試した8GBメモリー搭載機では、ブラウザのタブを20も30も開いていくと次第に反応速度が低下していきましたが、10タブくらいであれば常に軽快です。調べごとをするときに検索を繰り返してもタイムラグを感じません。気分転換時に「YouTube」のリンクをクリックすると、動画が再生し始めるまでの時間も短い。この、わずか1秒未満の待ち時間があるかないかで、感情は大きく動くものです。新しいMacBook Airって速いんだと、お迎えしたいという気持ちが湧き上がってきます。
また驚いたのが「Zoom」などのテレミーティングツールを動かした際です。2020年以降の業務において重要となったこれらのアプリも、MacBook Airは難なくドライブします。たとえ30人40人が参加しているウェビナーでも、難なく。8GBメモリーでここまでストレスを感じないPCは、ぶっちゃけ初めてですよ。
CPUとメモリー部が物理的に近く、データの転送速度に優れるというM1チップのメリットは、一般的なデスクワークにおいても感じられるものでしたし、バッテリーの減りも少なかったことから、低負荷な状態では省エネでの処理が実現できていることがわかります。
クリエイティブワークさえ軽快
作業する内容の強度といいましょうか。負荷の強さに呼応してエコだけではなくターボも効かせられるM1チップ。続いて高負荷なクリエイティブワークを試してみましょう。
動画ライターとしても活動している手前、特に動画制作においてのポテンシャルが気になります。さっそく「iPhone 12 Pro Max」などで撮影した4K動画を「iMovie」に読ませて編集したところ速い! もう食い気味に書きたいくらいに速い! シーク1つとってもヌルヌルです。
自分の持っているMacBookは2016年式の「MacBook Pro(Core i5・16GB・512GB SSD)」ということもあり、比較対象とするにはやや古いですが、それでもあえて比較してみました。いくつかのクリップを並べて作った10分ほどの4K動画をレンダリングすると、古いMacBook Proは8分ほどの時間がかかりましたが、MacBook Airは5分ほどで終了。2倍の速度、とまではいかないまでも、明らかに高速です。

「Darkroom」を使った「RAW」画像の現像や、「GarageBand」での音楽制作にも使ってみましたが、ポテンシャルの高さを裏付けるような快適さで作業できてしまいました。
ちなみにこのスピード感から推測すると、性能面ではCore i9搭載機でメモリーも32GBとか64GBまで載せている前世代の最強・全盛りMacBook Proにはかなわないでしょう。 でも僕たちは忘れてはなりません。ここで使ったのは税込みでも11万円台(2020年1月6日時点)の、M1チップ搭載MacBookシリーズの中でも末弟となるモデルだということを。ハイスペックな30万円も40万円もするPCではないんです。ベーシックモデルなんです。
ライバルはMacBook Pro
今までMacBookシリーズは、アプリの充実度でWindowsに届かないところがありました。しかしM1チップ搭載のMacBookシリーズは、一部ではありますが「iPhone」や「iPad」のアプリをインストールして使うことができるようになりました。これはM1チップとiPhoneなどに使われる「Aシリーズ」チップは同じ「ARM」アーキテクチャによるもので、互換性があるため。タッチデバイス用のアプリではありますが、意外とキーボード&タッチパッド環境でも使いやすく、ユニバーサルな対応アプリが増えていけば、アプリの豊富さでMacBookシリーズを選ぶというケースも生まれていくでしょう。
海外のYouTuberのレポートを見るに、M1チップ搭載MacBook上で「Instagram」アプリも動いていました。これ、ビジネスでInstagramを活用している人にとって朗報すぎでしょう。今までPCからInstagramに画像をポストすることは、基本的に不可能(応用的には可能だけど面倒)だったのですから。
基本的にWindowsユーザーの僕ではありますが、MacBook Airを使ってみて、外出用のPCに新しいMacBookシリーズを導入するのも悪くない、と考えるようになりました。 長尺の4K動画編集や、数百枚のRAW画像現像など、広大なメモリー空間が必要になる作業では、現在のPCと比べてさほど高速化しないだろうと予測できますが、屋外での動画編集や画像現像は一時的なものが多いから、8GBまたは16GBのMacBook Airでも事足りるんじゃないかな、と。ストレージも最大2TBまで増やせることですし。

だからこそMacBook Airと同時に気になってくるのが、同じくM1搭載の「MacBook Pro」です。プロセッサー面での差はGPU部分のコア数だけのようですが、バッテリー容量が多く、冷却ファンが内蔵されているMacBook Proのアドバンテージは小さくない気がしている……のです。
しかし、前述したように、ヘビーウェイトな作業は一時的で、普段はテキストを記したりブラウザで情報を検索することが多いなら、MacBook Airで十分事足りるな、とも思えてきます。
というか「10万円台のモバイルPCって、一般的なビジネスワーク向けだよね」という固定概念がアップデートされてしまいました。このMacBook Air以降は「10万円台のモバイルPCでもクリエイティブワークはできないとね」と。
文:武者良太 写真:文田信基(fort)