アクアリウムにおいて、水換えは重要な作業です。水中ではどんなことが起きているのでしょうか? 化学的な面から紐解いていきましょう。
水換えは水槽を維持するうえで最も基本的かつ重要なメンテナンスです。「水槽掃除は水槽が汚れてくるから行うもの」「水換えは汚れた水を入れ換えるもの」、このようなイメージがあるかもしれません。しかし、水換えは単なる掃除ではありません。水槽の環境を安定させるメンテナンス、そういった意味を持っているのです。
古くなった水を新しい水に換えてリフレッシュする。これはわかりやすいと思うのですが、水換えは一般に1/4〜1/3量程度の部分水換えを定期的に行うことが推奨されています。これはなぜでしょうか。まるごと水を入れ換え、徹底的にゴミを取り除き、きれいサッパリにしてはいけないのでしょうか。もちろん部分水換えは意味があって推奨されています。
まずなにより重視されているのは、水質を急変動させないことです。水質とはpH(ペーハー)やGH(総硬度 カルシウムイオンとマグネシウムイオンの合計量)など水のさまざまな性質のことですが、水槽では魚の飼育を続けているうちに、ゆっくりと水質は変化していきます。こうして水質が変化したところに、大量の水換えをしたらどうなるか? 水質が大きく変動して魚が強いストレスを受け、最悪の場合は死んでしまうこともあるのです。
水換えによって魚がストレスを受ける、と言われてもピンと来ないかもしれませんが、水のなかで生活している魚にとって、水質の影響は非常に大きいものなのです。もちろんある程度の水質の変化には慣れることもできます。しかし、急変となると話は違います。魚はエラの薄い膜で水と血液が接しており、水温や水質の変化は血液に直接影響が及ぶ恐れが高まります。血液は全身を循環しているため、水温が下がればエラで冷やされた血液がすぐさま全身の温度を冷やしてしまいます。
pHが急変すれば血液のpHまで変動してしまうため、魚の体内ではこれを必死に抑えようとフル稼働で調整が行われます。このような現象が魚を消耗させ、限度を超えると死につながってしまいます。自然界でも水温や水質の急変が大量死につながることがありますが、魚は安定こそが快適で、急変はつらいものです。定期的な少量の水換えは、これらの変化を最小限に抑える大きな意味を持ちます。
これは魚だけに限った話ではなく、水槽の微生物環境を維持するうえでも大切なことです。ベテランアクアリストなら、水槽の微生物環境が一朝一夕では立ち上がらないことはよくご存じのことと思います。ろ過バクテリアの立ち上がりはもちろん、水槽にはそのほかさまざまな細菌類、カビ、原生動物など、多くの生き物が繁殖し、独自の微生物環境をつくりあげています。
微生物環境がよく整い、うまく回っている水槽は非常に安定し、魚も元気になるのですが、そこまでいくにはほんとうに時間がかかります。そのため、これを一気に崩壊させる水の全交換、フィルターも含めたリセットなどは、やむにやまれぬ事情がない限りはやるべきではないのです。
多量の水換えも微生物には脅威となるため、ろ過バクテリアはもちろん、水槽内に生息する多種多様な微生物を守るためにも、少量の定期的な水換えが推奨されています。

ろ過装置(フィルター)は飼育水が循環してろ過材を通過することで、物理ろ過、化学ろ過、生物ろ過を行う。アクアリウムでは最も重要なアイテムの1つです。写真は水槽内に設置する内部式フィルター。
水槽を維持するうえで、水換えと並んで重要なのがろ過の存在です。ろ過の目的は魚が出す糞(ふん)や尿といった排泄物を化学的に分解することにあります。尿に含まれるアンモニア(糞も分解されるとアンモニアが放出されます)が魚にとって有害であるため、これを分解して無害な形にしようというわけです。そのため、魚の飼育でろ過装置は必須アイテムとなっています。しかしこれは水槽にセットすればすぐに効果を発揮するというものではありません。
厳密にいえば、生物ろ過は立ち上がるのにかなりの時間がかかるということですが、まずはろ過の基本的なことから解説したいと思います。ろ過を行うろ過装置は水を回す機械(あるいはエアーレションなど)の部分と、水を浄化するフィルターで構成されています。フィルター部分は水を浄化する要ですが、この機能は大きく3つに分けることができます。
大きなゴミを粗めのスポンジなどでこし取り、除去することです。厳密にはここでも生物ろ過は働きますが、主な目的はゴミのトラップや、水をろ過槽にまんべんなく行き渡らせるために、流れを拡散させる効果を狙うことです。
活性炭などを使い、魚に有害なアンモニアを直接吸着して無害化させるものです。一般には水槽立ち上げ時、次に解説する生物ろ過が立ち上がるまでの間、有害物質を除去するために使われます。吸着力には限界があるため、生物ろ過が十分に機能すれば不要となりますが、活性炭そのものが多孔質で表面積が広く、そのまま生物ろ過に移行させることもできます。
ろ過の要となる部分です。ろ過バクテリアにより有害なアンモニアを、ほとんど害がない硝酸塩まで分解することを目的にしています。ろ過バクテリアは物体の表面に繁殖しコロニーをつくるため、ろ過材は表面積が広い多孔質が望ましく、メーカーは工夫を凝らした製品を開発しています。
ろ過装置のなかで中核となるのは生物ろ過です。いかにうまく生物ろ過を立ち上げるかが水槽セットアップ初期の課題となります。生物ろ過とは具体的にどのような作用なのでしょうか? まず魚は、餌を食べると糞や尿をします。糞にはアミノ酸やタンパク質などが含まれ、これを有機態窒素といいます。尿にはアンモニアが含まれており、こちらは無機態窒素といいます。これらは微生物によって分解されることになるのですが、まずは有機態窒素から解説してみましょう。

水槽を調子よく維持するためには、物理ろ過・化学ろ過・生物ろ過をしっかり効かせることが大切です。バクテリアの働きを強化させるため、さまざまな製品が販売されています。写真の製品は水換え時に注入するタイプ。
有機態窒素、つまり魚が出した糞など有機物のゴミは、糸状菌(カビ)や細菌、原生動物によって分解されていきます。こうした微生物は有機物を食べながら繁殖し、活性汚泥という原生動物や細菌と有機物が混ざり合ったものをつくります。これらは細菌が出す「ねばねば」によりくっついて集まり、やがてふわふわとした泥状の塊に成長し、これを「フロック」と呼びます。フィルターの中や底床に溜まる茶色いゴミがフロックです。
見た目は水槽内のゴミとしか思えないのでていねいに掃除する方もいるかと思いますが、有機物を分解し、水槽内の余分な窒素(藻類の栄養になりがち)の一部を自分の体の材料としてキープすることで水槽内の窒素バランスを保つ役割を持っているため、ある程度存在していないと水槽内環境が安定しません。むろん増えすぎるとよろしくないので、底床掃除やフィルター掃除で取り除く必要はあるのですが、徹底的な掃除はせず、ある程度残したほうが水槽が安定します。こうした微生物に分解された有機物は、最後はアンモニアとして水中に放出されていきます。
尿や糞から出てきたアンモニアは魚にとって有害です。厳密には毒性はpHに左右され、海水魚など弱アルカリ性環境の水ほど危険度は高く、弱酸性の水では毒性が低くなりますが、有害なことに変わりはなく、なんとか除去しなくてはなりません。ということで、これらはバクテリアに分解してもらうことになります。この作用を「硝化(しょうか)」といい、硝化を行うバクテリアを硝化バクテリアといいます。アクアリストのあいだでは「ろ過バクテリア」と呼ばれることが多いでしょう。
硝化バクテリアはアンモニアを亜硝酸塩に分解するニトロソモナス群と、亜硝酸塩を硝酸塩に分解するニトロバクター群というグループに分けられます。魚から排出されたアンモニアは、まずニトロソモナス群で分解されることになります。化学式では以下のようになります。

アンモニアと酸素を使って亜硝酸塩と水素イオン、水を放出するのですね。
こうして出てきた亜硝酸塩もまだ毒性が高いため、さらに分解しなくてはなりません。これを担当するのは先に書いたニトロバクター群で、化学式は以下のようになります。

このように酸素を使い、亜硝酸塩は魚にとって毒性が非常に低い硝酸塩へと変化します。自然界ではさらに脱窒菌によって硝酸塩が気体の窒素へと変わるのですが、水槽でこれを再現するのは難しく、淡水魚飼育ではあまり行われていません。
最後に残る硝酸塩は毒性が低いため問題は出にくいのですが、完全に無害なわけではありません。放置すると水槽に溜まっていくこともあって、水換えで外に出す必要があります(水草を植えている場合は肥料としてある程度吸収されますが)。また、有機物は完全に分解されることはなく、最終的に分解されにくい難分解性有機物が残っていくため、これも水換えで外に出してやる必要があります。
さらに、ニトロソモナスによる硝化作用では2H+つまり水素イオンが放出されるため、水は徐々に酸性に傾きやすくなっていきます。このようにろ過だけでは水槽の老廃物除去は完結できないため、定期的な水換えや掃除でメンテナンスしていくことが必要になっていきます。
ただ、定期的な水換えだけでうまく環境を維持できるとは限りません。硝酸塩を十分に減らすことができず藻類が大発生するここともありますし、水槽内の環境がうまく維持できなくなって水の臭いがきつくなる、泡が消えにくくなる、なんとなく濁っている、そんな症状が出てくることもあります。そのときは臨時に水換えを行ったり、水換え頻度を上げたりするなど、対応していきましょう。根本的な原因はろ過能力不足や過密飼育であることも多いので、思い当たるようであれば、ろ過能力アップなどの対策も忘れずに。
なお、硝化作用の説明でニトロソモナス群、ニトロバクター群ともにO2(酸素)と書かれているように、硝化には十分な酸素が必要となります。フィルターの物理ろ過材のなかには「エーハイメック」のように、とくに水流の分散効果を狙った製品もありますが、これはろ過バクテリアに水を行き渡らせるほか、酸素が不足する止水をつくらない意味もあります。酸素を供給するにはエアレーションがもっとも効果的でしょう。水草水槽ではCO2を逃がすエアレーションは使いにくいですが、夜間エアレーション*1でろ過の効率を上げることもできます。ろ過能力不足の場合、まずはエアレーションを試してもよいでしょう。
*1
昼間エアーレーションを止めると逆流の原因になるため、エアレーション用の逆流防止弁を取り付ける必要があります。
アクアリウムのメンテナンス
こんなときはどうする?
トラブルシューティング
© Kakaku.com, Inc. All Rights Reserved. 無断転載禁止